日本の美点ここにあり!ゴルフ練習場倒壊鉄柱の無償撤去申し出

高橋 克己

きのう朝、「台風で倒壊のゴルフ練習場鉄柱、都内業者が無償撤去へ 千葉・市原」(産経新聞)を読んで思わず落涙してしまった。昨夜、ギックリ腰を起して動けない上、他人様に迷惑こそ掛けていないものの、長引く先般の超弩級台風の被災者にも何一つできない情けない我が身を顧みたのだ。

NHKニュースより:編集部

世間にはこういう奇特な企業があるのだなあ、と筆者の涙腺を緩ませたその会社の企業情報を見たら、会長と社長連名の「ご挨拶」にはこうある。(太字は筆者)

・・決して商いにこだわることなく、品質、安全管理、技術力、財務内容で日本一の解体工事専門業者を目指します

その会社「株式会社フジムラ」は、昭和55年の設立とあるから社歴は40年ほど。ここ2年の業績は売上高がそれぞれおよそ46億円、営業利益は2018年度5億2千万円で、2019年度は2億1千万円と減益だ。堅実そうだが大企業という訳ではない。

フジムラ公式サイトより:編集部

だが、今回の件と共に「商いにこだわることなく」、「日本一の解体工事専門業者」を目指していることを彷彿させる記事がWikipediaにあった。それは国立競技場の解体工事一般入札での出来事。東京五輪開催用の新しい国立競技場を建設するための旧競技場取り壊しだ。

2014年5月の第1回入札では、参加出来る資格が建設業者に限られ、4社が参加したが不調に終わった。日本スポーツ振興センター(JSC)は7月の第2回目の入札で、参加資格に文部科学省の最高基準を満たした解体工事業者にも門戸を広げた。その結果、フジムラが最低価格を提示した。

だが、JSCは入札結果を保留、フジムラを特別重点調査の対象とした。そして調査した結果、この入札を無効とした。フジムラはJSCに抗議し、書類の不備の修正を申し出た。だが聞き入れられなかったため、8月28日、内閣府政府調達苦情処理対策室に苦情処理申立書を提出した。

9月末、内閣府政府調達苦情検討委員会はフジムラの苦情申立を認めた。事の詳細は省くが、要するにJSCに調達過程の公正性・公平性や入札書の秘密性を損なう不備があったのだ。この結果、第2回目の入札は破棄されたが、12月に行われた第3回目の入札でフジムラは天下晴れて落札した。

筆者はこれを読んで、ヤマト運輸の故小倉社長が、宅配便の規制緩和をめぐって当時の運輸省と激しく対立し、要求を勝ち取ったたことを思い出した。つまり、相手が監督官庁であろうと何であろうと、理不尽なことには毅然として立ち向かうということ。

とはいえ、これはフジムラの限られた情報での筆者の思い込みかも知れず、今後また売名行為だなんだかんだと毀誉褒貶が出てくるかも知れぬ。が、今回の無償撤去の申し出が「義挙」であり、途方に暮れていた被害者と練習場経営者に光明を見出させたことは、称賛して余りある。

先述の「ご挨拶」はこう続く。

解体業において最も重要な安全対策には、創業者・藤村洋輔の想いを込めた「妻や子が一つの願い父の無事」が創業以来現社員一人ひとりに引き継がれており、日々安全作業を心掛けて施工しております。

こういった企業理念を持つオーナー会社や小粒だがピリリと辛い企業の存在が、日夜人知れず日本を支えている。「フジムラ」に心からエールを送りたい。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。