文在寅政権は20年遅れの「全共闘運動」

池田 信夫

日本人が今の韓国を理解することはむずかしいが、 世代論でみると、文在寅政権を支える386世代は、日本の団塊の世代に近い。これは「30代で80年代の民主化運動を支持した60年代生まれの世代」という意味だが、1987年の韓国民主化は1968年の日本の大学紛争と似ている。

1980年に光州事件を鎮圧するクーデタで生まれた全斗煥政権は、最初から民主的正統性のない政権だった。これに対して大統領の直接選挙などを要求する民主化運動が、学生を中心に広がった。光州事件のときデモに参加して、投獄された文在寅もその一員だった。

これは60年代の全共闘運動に似ているが、最大の違いは韓国の民主化運動が勝利したことだ。1988年に憲法が改正され、大統領が直接選挙で選出された。しかしその結果生まれたのは軍部出身の盧泰愚政権だったので、民主化運動はさらに過激化した。

その最左派が南韓社会主義労働者同盟(社労盟)だった。これは暴力革命を掲げる地下組織で、日本でいえば中核派や革マル派のようなものだ。いま問題になっている曹国(チョグク)は1965年生まれで、社労盟の幹部だった。

彼は武装蜂起を計画したという容疑で、1993年に逮捕・起訴された。裁判では有罪が確定し、執行猶予となったが、その後ソウル大学教授になり、今回は法務部長官に指名された。日本でいうと、革マル派の幹部が東大教授になり、法相になったようなものだ。

曹国法務部長官(Wikipediaより)

国会の公聴会でも、曹国は転向を明言せず「憲法の枠組のもとで社会主義政策が必要だ」と答えており、北朝鮮との統一を志向している。

もし全共闘が政権を取ったら

これは日本では考えられない状況だが、時間を20年平行移動してみると、理解できるかもしれない。もし1968年に全共闘運動が勝利して佐藤栄作首相が退陣し、社会党の委員長が首相になったと想像してみよう。

それでも「こういうブルジョア的な政権で社会主義は実現できない」と考える過激派は武装蜂起を計画し、幹部は逮捕されるが、その後は社会党政権のもとで社会復帰する。そのまま政府の中枢が全共闘OBで占められる。

日本の団塊の世代と韓国の386世代の共通点は、子供のころ左翼思想を教わったことだ。これは日本では憲法の絶対平和主義、韓国では反日思想という形をとった。どっちもその時代には、それなりの必然性があった。

日本では軍部の復活を許さないために占領軍がつくった憲法が、教育やマスコミに浸透した。韓国では軍事政権が、その正統性を装うために「抗日戦争」の歴史を偽造した。

こういう刷り込みは、意外にながく続く。教わったまま左翼思想を答案に書く学校秀才が教師やジャーナリストになり、新たな国体を護持するからだ。

日本でも民主党政権には全共闘OBがたくさんいたが、それが原因で自滅した。若いころ社会から排除されて運動しか知らない活動家には、官僚機構がコントロールできない。就職できなかった弁護士には、ビジネスがわからない。

この教訓を韓国に適用すると、文在寅のような左派政権がながく続くとは考えにくい。曹国はその後継者とみられているが、彼が2022年の大統領選挙に勝利する確率はきわめて低い。政権が保守派に戻ると、また「粛清」が始まるだろう。それを防ぐ「検察改革」が彼のミッションだが、検察は強制捜査で対抗している。

386世代は20年遅れの団塊の世代だから、その末路は予想できる。アンチビジネスの民主党政権が自壊したように、文在寅政権も自壊するだろう。その後にできる保守政権は、誰が大統領になっても文在寅よりはましだろう。

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