遺棄致死でなく遺棄殺人罪に
「パパ、ママ。許して下さい」と悲痛の叫びをノートに書き残した船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)の虐待死事件を扱った東京地裁で、検察は養父に懲役18年を求刑しました。甘すぎる。15日の判決では、これをさらに減刑するでしょう。甘すぎる。
政治、経済、国際などをメインにする私のブログで、あまりに残酷さに驚愕し、めったに扱わない児童虐待死事件を取り上げたところ、多数のアクセスがありました。「児童虐待死の刑罰が甘すぎる」「親を極刑に課せ」「子に与えたのと同等の苦しみを体験させよ」など、多くのコメントが寄せられました。同感です。
裁判員裁判の第五回公判が7日ありました。両親の容疑の責任者遺棄致死罪は、「3年以上、20年以下の懲役」と刑法で定められています。検察の求刑はその範囲内ですから、「20年」に対しては長いほうの「18年」で、「比類なく悪質」(検察)に沿ったつもりなのかもしれません。
刑法で「20年以下」まで認めているのですから、せめて求刑は上限の「20年」とすべきでした。次に注目されるのが15日の判決です。過去の事例では、判決が示す量刑は求刑の7、8割です。ただし、裁判所は求刑にこだわらず、これを上回ることができる。ですから、裁判所は求刑以上、せめて「20年」の判決を出すべきでしょう。
法改正で死刑か無期懲役に
本来なら、司法は児童虐待死罪を現行より厳罰化し、上限を「死刑ない無期懲役」に引き上げておくべきでした。さらに子供に与えたのと同等の苦しみを体験させ、「結愛ちゃん、許して」と毎日、ノートに書かせ、誤らせる。そうでもしないと、親は本当に反省しないでしょう。
児童虐待件数は毎年、最悪記録を更新し、18年度は前年比2割増の16万件でした。虐待死は17年度、70人で、日本小児科学会では、実際の虐待死はその3,4倍を上り、つまり年350人と推計しています。
家庭環境の悪化、経済的貧困、精神的不安定、親の幼少期の育てられ方など、本人側の問題のほかに、虐待を救うべき児童相談所、警察、病院の体制不備などがあるでしょう。そのため、児童虐待防止法があり、それが19年に改正(体罰禁止、児童相談所と警察の連携強化)されはしました。それも甘い。
児童虐待に対する法定刑罰はゆるいままです。抵抗できない児童に対する虐待は死に至らしめること分かっているケースでも、遺棄致死罪が適用される。保護責任者を遺棄して死なせた場合、「遺棄致死罪」ではなく「遺棄殺人罪」とすべきです。
しつけと虐待は違う
虐待や体罰には、しつけの延長という甘い考えがある。子への懲戒権を親に認めている。それらの見直しも遅れています。だから「殺人罪」の導入ができない。
今回の結愛ちゃんのケースでは、「汁物を1日に1,2杯。食事制限でやせ細らせた」「寝ているのを首を無理やりつかみ、冷水を浴びせた」「馬乗りになって手加減せず殴った」「厳寒にもかかわらずベランダに立たせた」「命の危険が迫っていたのに、発覚を恐れ、病院に連れて行かず、放置した」と、検察は指摘しました。
「殺意」があったと、いってもおかしくない。本来なら「殺人罪」を適用すべき事件です。法の整備・強化が遅れているうえ、司法(法務省、裁判所、裁判官ら)が先例や判例とのバランスにとらわれ、急増する児童虐待をなくそうという熱意が足りない。「死刑」になるとしておくことです。虐待の歯止めになりましょう。
今回も、父親のDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けていた母親が、父親の暴力を制止できなかったようです。母親に対するDVも、刑罰に加算しなければなりません。母親は加害者であり、被害者でもありました。
さらに付け加えると、子供に与えたのと同等の罰を親に体験させるべきです。「1日茶わん1杯の食事」「厳寒のベランダに立たせる」「寝ているところを叩き起こし、ふろ場で冷水シャワーを浴びせる」。そして「結愛ちゃん、ゆるしてください」と、毎日、書かせる。それを経て、やっと子供に与えた苦しみ分かるかもしれません。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年10月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。