中韓の新興勢力が躍進!キヤノン高収益ビジネスモデルの破壊者の正体

長井 利尚

キヤノンに限らず、レンズ交換式カメラメーカーは、カメラ本体とレンズを接続する部分であるマウントを、他社製品とは互換性のない規格にすることで、自社製品に顧客を囲い込み、他社製品にスイッチする障壁を築き上げることで収益を上げてきた。

RFレンズを装着したミラーレスカメラ「EOS R」(キヤノン公式サイトより:編集部)

特に、レンズは、カメラ本体よりも利益率が高いと言われており、カメラメーカーは、高性能なレンズのラインアップを揃え、高収益をあげてきた。

私がキヤノン初の本格オートフォーカス一眼レフカメラ「EOS650」を使い始めたのは、1987年のことだった。最初に揃えたレンズは、標準ズームレンズ「EF35-70mmF3.5-4.5」と、望遠ズームレンズ「EF70-210mmF4」の2本だった。

現在では、コンパクトデジタルカメラには、望遠側が35mmフルサイズ換算で200mmを超えるものが少なくないが、私が「EOS650」を使い始めた頃のフィルム式コンパクトカメラには、そのような望遠レンズを使えるものはなかったので、小5にして望遠ズームレンズを使えるようになったのは本当に嬉しかった。

キヤノンには、標準的なレンズとは別に、高級レンズである「L(シリーズ)レンズ」が存在する。赤鉢巻きが目印だ。その時代の最高技術でキヤノンがプロやハイアマチュア向けに開発してきたレンズであり、レンズの描写性能にうるさい層からの絶大な支持を得てきた。もちろん、このLレンズは、標準的なレンズよりかなり高い値付けがされており、キヤノンの高収益の柱になってきた製品と言える。

キヤノン公式サイトより:編集部

私が初めて使ったLレンズは、この記事に書いた通り、中学3年生の時にカメラ雑誌のモニタープレゼントに当選したことで貰った「EF28-80mmF2.8-4L USM」であった。

USM(Ultrasonic Motor=超音波モーター)は、キヤノンが1987年に世界で初めて商品化した、滑らかで速く動くモーターである。技術屋の御手洗肇氏が存命中のキヤノンには、先見の明があったことは明白で、後に、かなり遅れて他社がレンズ駆動用モーターをUSMに置き換えてゆくことになる。現在では、安価なレンズにもUSMが搭載されているが、1990年代始め頃は、Lレンズのみに搭載されていた。

キヤノンの一眼カメラには、最高の描写性能を求めるなら、キヤノン純正のLレンズを使うのが、長らく常識とされてきた。しかし、現在では、キヤノンの高収益を支えてきたこの構図にも大きな変化の波が押し寄せている。

それは、レンズ専業(もしくは、専業に近い)サードパーティ製レンズの躍進である。私が一眼レフを使い始めた頃、サードパーティ製レンズというのは、「安かろう、悪かろう」という印象が強かった。確かに、純正レンズよりは安いのだが、最高の描写性能を求める者には物足りない性能だった。ところが、現在は、事情が大きく異なる。

長野県中野市の光学機器メーカー「コシナ」は、ドイツの高級光学機器メーカー「カール・ツァイス」と提携し、同ブランドの一眼カメラ用交換レンズを製造販売している。例えば、「Otus」というレンズがある。このレンズは、キヤノンとニコンの一眼レフで使える(マウントアダプターを介せば、ミラーレス一眼でも勿論使える)。通販サイトなどで価格を調べれば一目瞭然だが、価格は同等のスペックのキヤノン純正Lレンズよりも高く、描写性能ではLレンズを大きく上回る究極のレンズだ。

Otus 1.4/100(カール・ツァイス公式サイトより:編集部)

同社は、株式を公開していないため、詳しい経営状況が開示されているわけではないが、無闇に企業規模を大きくすることなく、最高水準のレンズを求める層に向けて少量生産をしている。キヤノンのような一眼カメラメーカーよりも売上高営業利益率は高くても不思議ではない(キヤノンの2018年12月期の売上高経常利益率は連結で約8.67%)。

また、川崎市の光学機器メーカー「シグマ」も、高性能なレンズを次々に発売している。特に、開放F値がF1.4という大口径の「DG」シリーズのレンズ群の描写性能は凄まじく、キヤノン純正Lレンズを完全に上回っているものが多い。

また、中国の新興レンズメーカーVenus Optics社が製造販売しているレンズブランド「LAOWA」は、頭の固い光学機器メーカーが出さない、ユニークなコンセプトのレンズを次々に発売し、好評を博している。李大勇社長は、「北京理工大学を卒業後、20年に渡って日系大手光学メーカーにおいて光学設計に従事」してきたそうだ。私はまだ「LAOWA」レンズを持っていないが、機会があれば買って使ってみたい。

LAOWA公式サイトより:編集部

また、同じく中国のレンズメーカー(本社:深セン)「七工匠(7Artisans)」のレンズは、現在ではライカのレンジファインダーカメラ向けが多いものの、一眼カメラ用のユニークなレンズも発売しており、興味深い。瀋陽の光学機器メーカー「中一光学」のレンズも、面白い製品が多い。

韓国の光学機器メーカー「SAMYANG」のレンズも、興味深いものが多く、使ってみたいと思わせる。

SAMYANGレンズの国内販売代理店、ケンコー・トキナー公式サイトより:編集部

このように、キヤノンに限った話ではないのだが、日本のカメラメーカーが純正高価格レンズで高収益を上げるビジネスモデルは崩れ始めており、中韓の新興勢力の躍進が著しい。

日本の大手カメラメーカーは、今後どのように収益を確保してゆくのか、不明な点が多いので、今後もカメラ市場の動向には注視し続けてゆきたい。

長井 利尚(ながい としひさ)写真家
1976年群馬県高崎市生まれ。法政大学卒業後、民間企業で取締役を務める。1987年から本格的に鉄道写真撮影を開始。以後、「鉄道ダイヤ情報」「Rail Magazine」などの鉄道誌に作品が掲載される。TN Photo OfficeAmazon著者ページ