学生が銃をもって講堂に現れた!

ドイツの情報機関、独連邦憲法擁護庁(BfV)のハンス・ゲオルグ・マーセン前長官が11日、ドイツ日刊紙ヴェルトのオンライン・インタビューで、旧東独ザクセン=アンハルト州のハレで起きたユダヤ教シナゴーク襲撃事件について、「子供部屋や両親の家に住み、一日中、チャットし、反ユダヤ主義、外国人排斥、女性蔑視に過激化していく極右派を取り締まることはできない。事件が起きるまで彼らのアイデンティティーを掌握できない」と述べ、彼らを“オタク・テロリスト”と呼んで話題を呼んだことは先日紹介したばかりだ(「“オタク・テロリスト”に要注意 独情報機関の前トップが警告」2019年10月17日参考)。

ドイツ語圏最古、最大の総合大学、ウィーン大学の正面(2013年4月撮影)

そんな中、欧州最古の総合大学、ウィーン大学で16日、マーセン氏が呼んだ“オタク・テロリスト”に当てはまる学生が武器を携帯して講堂(Saal)に出席していたことが判明し、大学関係者ばかりか、国民にも大きな懸念を呼び起こしている。

ウィーン大学は1365年3月12日、ルドルフ4世(ハプスブルク家の当主、オーストリア公)によって創立されたドイツ語圏最古・最大の総合大学だ。コンラード・ローレンツ(動物行動学)、フリードリヒ・ハイエク(経済学者)、人間の血液型を発見したカール・ラントシュタイナーら10人のノーベル賞受賞者が同大学から出ている。欧州の名門の一つだ(「ウィーン大学650年の光と『影』」2015年3月17日参考)。

学生は物理学を専攻していた。彼が16日、講堂に銃を携帯して現れたのを他の学生が気が付いた。連絡を受けた学校側は学生に銃を持って大学には来ないように注意し、その日は何もなく終わったが、「ウィーン大学の学生が銃をもって大学に来た」というニュースが外部に流れ、メディアに報じられると、大学関係者ばかりか、国民にも衝撃を投じた。

問題の学生は21日には銃の代わりにナイフを所持して再び学校に現れたが、大学の入口で警備関係者に止められた。学校側は銃携帯を禁止する一方、学校への通学を禁止した。なお、学生は銃所持の許可証を持っていたが、銃を携帯して外出できる許可証はもっていないため、銃関連法に違反することから、銃を押収し、検察当局が学生を調べている。

米国では大学や高等学校で銃乱射事件が多発し、多くの犠牲者が出ているが、ウィーン大学内で学生による銃乱射事件は発生していない。それだけに、他の学生たちの間にも不安の声が聞かれる。

メディアの報道によると、学生はトランプ米大統領ファンでオーストリアの極右組織「イデンティテーレ運動」を支持。週刊誌プロフィールによると、学生はツイッターで「可能なだけ多くのイスラム教徒を殺害したい」と書いていた。なお、学生は久しく睡眠障害で治療を受け、薬を常用していたという。

今回は問題が起きる前に対応できたため不祥事は生じなかったが、非常に危険な実例だろう。米大学だけではない。ウィーンでも銃乱射事件などが起きる危険があることを改めて示したわけだ。ウィーン大の物理学科の講堂に約300人以上の学生が当時いたという。

学生はなぜ銃を携帯していたか、彼を取り巻く環境はどうだったか、などを慎重に調査する必要があるが、オタク・テロリストの潜在的危険性があったことは間違いないだろう。

同学生はオーストリアの治安関係者の監視対象にあった人物でもない。マーセン氏がいった「事件が起きるまでそのアイデンティティーはまったく知られていなかった」というオタク・テロリストのカテゴリーに入るわけだ。

なお、独週刊誌シュピーゲル電子版によると、旧東独のハレのユダヤ教シナゴーク襲撃事件の容疑者シュテファン・B(27)は「失業状況で、友人もなく、母親の下で生活していた」という。自分の部屋に閉じこもり、インターネットで極右思想に染まっていき、「可能な限り、多くのユダヤ人を殺す」と叫びながらシナゴークを襲撃したわけだ(「“オタク・テロリスト”に要注意」2019年10月17日参考)。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年10月17日の記事に一部加筆。