10月23日に、政府・復興推進委員会が行われ、復興庁総括に関する提言書が提出され、おおむねの了承がなされました。
東日本大震災の復興施策の総括に関するワーキンググループ報告(概要)
同時に、私も復興総括ワーキンググループの職を終えました。総括のポイントについて、私から3回に分けて、解説しておきたいと思います。
まずは被災者支援について。総括提言書の3つポイントを指摘します。
1.「すまい」から、「つながり」の生活再建へ
「従来の災害においては、住宅再建が中心であったが、東日本大震災においては、コミュニティ形成や心のケア等のソフト面が充実したところであり、 今後の大規模災害時においても、こうした面を意識して実施することが重要である」(p9)
被災者支援は従来は、住宅再建が中心でした。家を失った被災者のニーズはダントツで「住まい」となります。復興政策も、仮設住宅整備、復興住宅整備が当初のうちは中心課題となります。
ただし、被災者が住宅再建すると、ニーズは一挙に「繋がり」へと変わります。被災者は、住宅を取り戻してから、元通りの生活に戻るためには周辺の住民とのコミュニケーションが大切だと気づくのです。
ワーキングの場で私からは、NHKの被災者アンケートを紹介しました。NHKは毎年3月11日前後で被災者へのアンケートを取っていて、これがとても貴重です。ここでも「住まい」の復興が進む一方、交流が減っている被災者の様子が紹介されています。
東日本大震災8年 被災者アンケート|NHK NEWS WEB
行政はハード整備は得意でもソフト施策は不得意なこともあって、長らく住宅整備までを中心的な仕事としていました。東日本大震災からの復興では、行政がNPOともパートナーシップを結び、繋がりを戻すためのコミュニティ支援や心のケアを国主導で行うようになり、また県や自治体もその重要性に気づくようになりました。
今回の「総括」でもそのことについて言及が行われ、また今後の災害でもソフト面での支援が重要であることが強調されています。
なおRCFは、UBSやジョンソンアンドジョンソンといった、海外の災害復興においてコミュニティ支援の経験をもった企業と連携でき、釜石や大船渡で2012年頃に先駆的な取り組みをできました。そうした取組の先に、福島の復興住宅でのコミュニティ支援や、岩手県によるコミュニティ支援に繋げることができました。また西日本豪雨からの復興では、宇和島のコミュニティ支援のサポートを行っています。
2.コミュニティ自立と質的な充実
「災害公営住宅等の恒久住宅への移転が進む状況を踏まえると、孤立防止等の観点からコミュニティの形成が重要であり、自治会支援等においては、設立するだけでなく、質的な充実も見ていく必要。また、地域とのつながりや活動の持続性の観点から、住民の主体性が醸成され、自立する視点が必要である」(p8)
他方、住宅再建に比べるとコミュニティ支援は終わりが見えない側面があります。そのため行政としては、自治会の自立を促すことが増えるようになります。ただし自治会も高齢化が進み、自立とは程遠い状況にある復興住宅自治会も少なくありません。
今回の総括議論では、単純に自立を目指すのではなく、まずは自治会自体が機能しているかを見極め、支援する必要性が議論されました。
ちょうどワーキング開催タイミングで特集されていた、河北新報の「災害公営住宅は今」を私からは引き合いに出しました。
ここでは、自治会の運営の苦労や、集会所が利用されていなかったり、住民のコスト負担が大きい現実が紹介されています。単純に自治会の数を追い求めるだけでもなく、無理な継続や自立を求めるのでもなく、いかに質的に充実を図っていくかが、復興行政の課題です。また、今後も発生し続ける災害からの復興でも、まったく同じ問題が発生し続けることになります。
3. 県外避難者についての言及
「原子力災害被災地域等から避難している方々は、避難生活の長期化 や帰還の遅れなどの事情があり、引き続き丁寧な支援を実施する必要がある」(p9)
津波被災地や原発避難12市町村と異なり、比較的放射線量が低い地域から自主避難をしている方も全国におられます。そうした方々のケアをどうするかは大きな課題です。
避難を続けている方は、母子で生活する方も多く、仕事は十分なく、また精神的疾患を受けている割合も高くなっています。各自治体も地域の外に避難された方へのケアはなかなか行き届かず、また国・県は相談窓口を設置してもいますが、全てを把握できているわけではありません。例えば次の記事が参考になります。
<東日本大震災>福島からの県外避難者 実態把握に難しさも | 河北新報オンラインニュース
RCFでは以前、双葉町と大熊町の復興支援員事業に関わり、全国に避難されている方の支援を行いました。東京でも交流会を行いましたが、双葉・大熊の皆さん以上に、福島以外の他地域からの避難者が多く来られていました。双葉や大熊は当時全町民が地域外で避難をされていたので、町としても県外避難者の対応を強く推進していましたが、他自治体では力を入れにくい現実があります。
こうした避難をされている方にいかに対応するか、社会全体が考えていく必要があります。(続く)
編集部より:この記事は、一般社団法人RCF 代表理事、藤沢烈氏の公式note 2019年11月6日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は藤沢氏のnoteをご覧ください。