近く沖縄に出張に行くところだったが、首里城の火災を巡る沖縄県の管理体制のずさんさが続々と明らかになって閉口している。
出火元?の電気設備を巡る説明に矛盾
首里城公園の所有権は国のままだが、首里城の有料施設の管理については今年2月、国から県に移管されたことは周知の通りだ。管理の実務については、一般社団法人「沖縄美ら島財団」を指定管理者にしてきた(その名の通り、同法人は、国立沖縄美ら海水族館(本部町)の管理も担っている)。
管理を県に任せてから1年もたたないうちに全焼する大失態。次第に明らかになりつつある出火原因は、放火でこそなかったものの、那覇市消防局は6日、首里城正殿北東側が火元とみて「黒く焼け焦げていた電気設備のボックスも調査を行う」方針を発表。電位系統の不具合によるものが有力な原因になりつつある。
首里城火災 分電盤周辺の配線に熱で溶けた痕 #nhk_news https://t.co/SDQlnUaKo8
— NHKニュース (@nhk_news) 2019年11月7日
そして、その翌日には、「首里城関係者が消防の調べに対し、正殿内部のLED照明について『スイッチを入れたままだったかもしれない』と証言していること」(産経新聞)が判明した。
産経記事が指摘するように、美ら海財団側は当初の記者会見で、火災前日の午後9時30分時点では、ブレーカーが落ち、通電はなかったとしており、この説明が事実と異なる様相になっており、財団側(=県側)がほんとうに当初は認識していなかったのか、それとも嘘をついたのかはわからないが、いずれにせよ、管理のずさんさを物語る。
保険額を1ケタも違えて発表。地元紙も失態続きに見放す?
そして唖然としたのが沖縄県の保険額の取り違え騒ぎだった。県議会では、9月定例会の会期中に、玉城知事の公共事業発注疑惑の騒ぎがあったばかり。そして今度は、首里城火災が当然のごとく論点に上がっているが、県は7日の県議会経済労働委員会で、美ら海財団が支払う年間の保険額を294万円と発表したのが、実は1ケタ違う2940万円だったと訂正した。ヤフー不動産によると、那覇市内なら築5年の3LDK(69平米)のマンションが買えるだけの金額だ。
まさか最大保障額の70億円まで間違えてはいないと信じたいが、財源は税金だ。県民(あるいは交付税としてほかの46都道府県の国民)に、古くないマンション一室を県都で買えるだけの負担を毎年させてきているわけだから、ケアレスミスにしても信じがたい酷さだ。
玉城県政に融和的で、当初は国に責任の一端をなすりつけようとした琉球新報ですら明らかに論調が変わっている。
首里城火災までの警備体制で二転三転 管理団体 報道陣から質問相次ぐ 正殿は施錠後、外からの目視のみ(琉球新報)
そして琉球新報は8日の朝刊で焦点の延長コードが「今年2月から正殿内に取り付けられていたことも関係者への取材で分かった」とも報じた。これが事実であれば、2月は県の管理に移行したことを考えると、県の管理不手際の疑いがますます濃厚となる決定的な報道だ。県政に甘い地元紙ですらこの一大失態は、もはやかばい立てできず、矛先を向けざるを得なくなってきたようだ。
官民で支援の動きは異例のスピードだが…
首里城火災はそのセンセーショナルな事態もあって、全国から同情と共に異例のスピードで支援金が集まっている。那覇市が設定したクラウドファンディングのページは、目標額1億円のところ、開始9日で4億3000万円を超える勢いだ。
そして、国も、先日の菅官房長官の記者会見などで公的資金投入を柱にした再建の方向性を示している。これを巡っては沖縄タイムスが、野党内の「辺野古や選挙対策の狙いもあるのではないか」との邪推を紹介し、「選挙で苦戦を強いられている沖縄で、県民の要望に応えることで理解を引き出したい思惑もにじむ」などと書いたことが物議をかもした。
もちろん国側にそうした思惑があることは筆者も全くは否定しまい。それが政治の世界の現実だからだ。
とはいえ、沖縄県側も国や全国の皆さんから手厚い支援を受ける以上、管理責任は真摯に受け止め、反省し、真相究明と再発防止に向けて本気で取り組まなければ、日本中を挙げて、心を一つにして再建ということにはなるまい。
だが、ここまでの対応を見る限り、玉城県政には重要な歴史的施設の管理能力だけでなく、危機対処能力も含めて、とても任せられるように思えない。国に責任をなすりつけたい県内の空気を忖度するような地元紙の報道もいただけない。
沖縄問題に詳しいジャーナリストの篠原章氏は7日のフェイスブックで、美ら海財団が過去にも、123億円の国費を投入した海洋博の展示施設を「沖縄の子どもたちのため」と2億円で買い取りながら、結局、中国に売却したことも指摘して、その経営管理能力を疑問視。財団の解体と出直しを求めていたが、筆者も全く同感だ。
能力のない自治体に権限を譲っていいのか問題
さらにいえば、この問題は、中央集権と地方分権の論点を問い直すことにもなる。先日も書いたように、地方分権の潮流に沿って国からさまざまな権限が地方に移譲しているが、今回の首里城をめぐる沖縄県のように能力的に「重荷」な案件まで無理に地方に任せることがいいのか、疑問にも感じる。
そういえば、先日も「朝まで生テレビ」で、災害対策について、音喜多君が地方分権の立場から主張したのに対し、総務大臣政務官として豪雨災害対応の修羅場をくぐった、小林史明さんにあっさり反論されてしまっていたが、ここのところの防災問題をみていると、地元に任せたはいいが、結果的に地方ごとに品質管理の格差が生じてしい、出来の悪い地域の住民が不利益を被るという事態に現実味を感じる。
年々悪化する豪雨、台風災害を考えると、なにをどこまで移譲すべきか、それとも国で引き続き主導するのか、政治的、社会的議論、そして政治的決定は待ったなしだ。
いずれにせよ、いまの沖縄県政が(そして地元メディアも)国に対して対決姿勢である限り、管理能力不足と再発防止に不安を残す。筆者は安易な国費投入による首里城再建には反対だ。それでも再建するのであれば、せめて国に管理を戻し、国が指定した東京などの実績ある事業者に任せるべきだ。
新田 哲史 アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」