カタルーニャ独立騒動の中で…バルセロナで宿泊税値上げの動きの背景

白石 和幸

バルセロナが国際的に知名度が高くなったのは1992年のバルセロナ・オリンピック以降だが、今年1月から8月までのバルセロナへの訪問者は810万人。昨年同期比6.3%の伸びを見せた。訪問者の多さを利用して生まれたのが2012年から導入された宿泊税である。

写真左は、バルセロナの有名ホテル「ホテルプラザ」(flickrより編集部引用)

5つ星のホテルに宿泊すると一泊ごとに2.25ユーロ(266円)が課税される。4つ星だと1.10ユーロ、それ以下のランクのホテルは0.65ユーロ。また最近人気が出ているショートタイム・レンタルマンションの場合はひとりにつき2.25ユーロ。また年間で220万人が訪問するクルーザーだとバルセロナに12時間以下の停泊では一人当たり0.65ユーロ、12時間以上だと2.25ユーロとなっている。

バルセロナ以外のカタルーニャの他の地域だと五つ星ホテルだと2.25ユーロ、4つ星は0.90ユーロ、それ以下のランクだと0.45ユーロ。レンタルマンションの場合はひとりにつき0.90ユーロとなっている。

この宿泊税は非常に少額の税金のように見えるが、仮に5つ星ホテルに1週間滞在するとおよそ1860円に相当する金額を支払うことになる。それに対しての宿泊客への見返りは何もない。スペインで宿泊税を導入しているのはカタルーニャ州だけである。

昨年の宿泊税による税収は3000万ユーロ(35億4000万円)で、その半分の1500万ユーロがバルセロナ市の歳入となり、残り半分がカタルーニャ州の歳入となっている。(参照:libremercado.com

カタラン人は一般に金儲けに長けた人たちが多いとスペインで言われているが、正にその通りである。しかもケチだ。観光客相手の商売ではなく一般市民を対象にしたショップでも日曜日に多くの店が開いているのを多く見かけるのは当初バルセロナだけであった。今ではスペインの他の都市でも日曜日に開けている店は良く見かけるようになったが以前は稀であった。

筆者が経験していることで、企業のプライスリストも最後の一桁は切り下げまたは切り上げにしてゼロにするのが一般的であるが、カタルーニャの企業は最後の一桁をゼロにすることはなく、儲けの精神が滲みこんでいる。

市民活動家だったアダ・コラウが市長になったバルセロナ市では州政府との折半ではなく、バルセロナ市だけの税収になるべく新たにこの宿泊税を日毎最高4ユーロ(472円)まで上げることを提案した。

すなわち、これまでの2.25ユーロに4ユーロが加算されて最高6.25ユーロ(738円)が宿泊税となる可能性がある。仮に1週間5つ星のホテルに宿泊すれば21%の消費税以外におよそ5200円の宿泊税を払うことになるのである。こうなると、宿泊客の泊まろうとする行為を逆なでするようなものである。

ヨーロッパではイタリアでもフランスでも宿泊税を課している都市があるが、スペインでそれを導入したのは今のところバルセロナだけである。マドリードでもバレンシアでもそれを導入するとは思えない。カタラン人の収入につながるものであれば許せる範囲でそれを実施しようとするのがカタラン人の気質である。

今年1月から8月までバルセロナ市内のレンタルマンション宿泊客は昨年同期比14.2%の伸びを見せたのに対し、ホテルでの宿泊客の伸びは7.2%。カタルーニャ全体から見ると逆に570万人がホテルでの宿泊を選らび、240万人がレンタルマンションでの宿泊を選択しているという統計が発表されている。宿泊客のベスト4はフランス、米国、英国、イタリアからの訪問となっている。(参照:cronicaglobal.elespanol.com

市の税収に繋がることであれば市議会の大半の政党がそれに賛成を表明するという具合で9月30日の議会でそれが可決した。それを州議会に回して宿泊税案の改正を要請することになる。現行法では宿泊税は州政府の管轄になっているからで、市政が来年からの適用を目指している。

現在の訪問者数からバルセロナ市政は最高4ユーロの宿泊税の追加分はおよそ3000万ユーロになると推測しており、それにこれまでの州政府との半々の税収分配による1500万ユーロの税収を加えて総額で4500万ユーロ(53億1000万円)の宿泊税による歳入を2020年から期待しているのである。州政府の方では宿泊税法の改正は2021年に法制化されると見ているという。(参照:elperiodico.com

それに対してバルセロナのホテル業界やレンタルマンションの持ち主の間ではこの値上げに反対している。ホテル連盟は既に3億2000万ユーロ(378億円)の税金を払い、宿泊税として年間で1900万ユーロ(22億4000万円)を収めている。それに対して市政からの観光プロモーションへの投資額は450万ユーロ(5300万円)でしかないと指摘して課税の割に観光発展の為の投資が少ないと不満を表明している。

またレンタルマンション連合会の方からは市内には違法のレンタルマンションが9000軒存在していることを挙げて、彼らは宿泊税は勿論支払っていないと指摘している。

それに対してバルセロナ市政はその税収は次の3つを対象に向けられるとしている。①レンタルマンションのコントロールの改善、②レンタルマンションの被害を受けている住民の生活改善、③観光の分散化。(参照:eleconomista.es

また宿泊税の値上げについても躊躇うことなく市政がそれを実行しよとしている背景には2012年に宿泊税を導入した時に観光業界から強いインパクトを与えるようになって観光客の訪問が減少するという懸念から反対があった。

ところが、実際にそれを導入しても観光者の訪問の減少はなかった。むしろ、観光者は増加している。しかもそのスピードは急激な成長となっている。ということで市政では宿泊税を値上げしても観光業への影響はないと断定して今回の値上げを決めたのである。

カタルーニャの独立問題から企業の進展や外国からの投資は後退している。そのなかで逆に唯一成長し続けているのが観光者の訪問増加だ。観光客が増えれば増えるほど、カタルーニャ自治体は図に乗って税金を値上げし続けるようだ。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家