ドローン、23区内の空を舞う:都市部での建物診断に活路

加藤 拓磨

東京・中野区役所の周辺で14日、ドローンが舞いました(動画をご参照)。

23区内においてドローンを飛行させることは許可が得づらく、その姿を確認することはほぼできません。航空法によりドローンの飛行は、空港周辺地域、人口密集地区においては航空局や空港事務所の許可が必要であるためです。

図1の赤い部分が該当地区で、23区内どころか東京都内ではほとんど飛行させることができません。

しかし私有地の上空でドローンを飛ばす場合はその所有者や管理者の許諾が得られれば、飛行することもできます。

本実験においては中野区役所の敷地内のみとし、周辺道路上に飛行はしませんでした。

図1  人口密集地区国土地理院HP

1983年、パソコン普及による第1次IT革命が始まり、第2次はインターネットやメールアドレス等の急速な普及、第3次はスマートフォンの登場でモバイル革命ともいわれました。

そして第4次、ドローンによる「空の産業革命」が起こると予測されています。

しかし総理大臣官邸屋上に落下したドローンが発見され、2015年に航空法は大変厳しいものとなり、日本のドローン産業は海外から後塵を拝しております。

海外においてはドローンを戦争兵器として開発を進め、テロで使われることも想定でき、もはやドローン飛行自体が危険だといって研究開発ができないことが、より危険な状況を生み出すと危惧します。

日本において、人口密集地区で飛行を禁じているのは急なドローンの落下や不法な撮影などのリスクを防ぐためですが、用途を絞ってリスク管理をすることによって、研究開発することが可能です。

国家戦略特別区域法を活用して、宮城県仙台市秋田県仙北市千葉県千葉市徳島県那賀郡那賀町などがドローン特区になっています。

千葉市を例に挙げると、ドローン宅配社会実装サポート事業ということでドローンによる宅配等の社会実験を実施しております。

輸送ルートの大半が海上で、ある程度の落下に対する安全性が担保されております。

図2  千葉県千葉市ドローン宅配会社実装サポート事業 

しかし23区の人口密集地区におけるドローン飛行を試みるには非常にハードルが高く、これまでに特区はありません。

ドローンを安全に飛行させる技術開発が必要です。

ドローンが落下する原因は強風、電波障害、故障などで、それが発生しない保証は現技術においてはないそうです。特に携帯電波、Wi-Fi、地デジなど無数の電波が大量に放出され、またビル風が強い都心部においては障害がいつ起こるかわかりません。

つまりドローンの落下を前提に研究開発をする必要があります。ドローンが落下してもその周辺の人、モノ、建物に激突することさえ回避できればいいわけです。

ドローンが予想外な場所に落下しないため、ペットでいえばリードをつけることで解決を図ります。

しかしリードをつけると行動範囲は限られ、ドローン搭載のカメラと対象物の距離は非常に短くなりますが、現況において都心でドローンを上げる前提条件となります。

またドローン飛行が必要な目的としては、建物診断の研究開発の推進があります。

中野区が狭隘かつ老朽化が進んだ住環境を変えていくための一助になると考えます。

「地震危険度」都内ワースト3位…中野が“住み続けられるまち”になるために』において、この国の建物、インフラは老朽化し、スラム化が止まらないこと、特に中野区は地震・火災に脆弱な地域であることを説明させていただきました。

現在、全国の多くの建物が維持管理もしくは建て替えの分岐点を迎えています。

建物も人間の体と同じでガンのステージ4までいくと取り返しがつきませんが、ステージ1で発見できれば回復が見込めます。ドローンによる建物診断により、変状を捉え、維持管理、建て替え検討の判断材料をつくります。

例えば、外壁タイルの貼り換えをする際は、足場を組み、破損個所を貼り換えることがありますが、見積もりと大きな差が生じるトラブルなどに対し、ドローンを使った診断技術で回避することもできます。

足場を置くのが困難な現場にも対応ができるわけです。

本実験では、安全のためドローンの行動範囲を狭くすること、建物の診断技術を向上させる目的の2点を鑑み、実証実験「ドローンを活用した(超)高層建物安全点検調査技術の開発」(国立研究開発法人 建築研究所、一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会、西武建設株式会社)を行うものです。写真1のようにドローンで撮影する調査範囲の下は屋上で関係者以外は立ち入り禁止です。

また図3にリードの付いたドローン、ラインドローンの概要図を示します。ドローンが致命的な落下をしないように最善の注意を払っての実証実験です。ドローンを係留(ラインでガイド)することで墜落・衝突を抑制して飛行させる技術です。

本実験はドローンを係留することで「安全性」「精度」「コスト」「効率性」を検証します。

図3 実験サイト

図4 実験概要

写真1 実験の様子(係留(上)) 

写真2 実験の様子(係留(下))

写真3 実験の様子(ドローン飛行)

建物診断は現状として、基本的には人による打診調査が主流です。

文字通り外壁などに道具で打った反応から診断するわけですが、そのためには足場、ゴンドラ、脚立など状況に合わせたものを用意する必要があります。いずれも高所作業となるため、危険は伴います。

キーワードは「ドローンの方が人よりも安全」です。

超高層マンション(60m以上)は2000年から急増し、800棟以上(2015現在※)となっています。

高さに限らず一定の条件を満たすビルは点検が義務付けられています。

高さの点検調査のため足場を組み立てる場合と比較し、コストや工期を短縮する効果が期待できます。

本実験は著者らが知る限り、都市部での建物診断の社会実装は国内では初だと思われます。

これまでドローンの安全性の低さが障壁となり普及を妨げてきましたが、本実験により点検調査への活用が実証されることで普及の促進が期待されます。

安全性が担保し、図5のレベル4を目指し、研究開発を進める必要があります。

図5 ドローン飛行難度のレベル

加藤 拓磨   中野区議会議員
1979年東京都中野区生まれ。中央大学大学院理工学研究科 土木工学専攻、博士(工学)取得。国土交通省 国土技術政策総合研究所 河川研究部 研究官、一般財団法人国土技術研究センターで気候変動、ゲリラ豪雨、防災・減災の研究に従事。2015年中野区議選で初当選(現在2期目)。公式サイト