認知症は自分には関係ない、と思っている方はまだまだ多いと思います。ところが案外、自分の親、家族、親せき、はたまた近所の方や世話になった方が認知症という方は案外多いものです。そしてこれほど厄介なものもないのであります。理由の一つは理学的治療法が確立されていないからであります。
それこそ、ガンに対する研究は日進月歩の感があり、かつて言われた「ガンは克服できる時代が来る」というのは確かに近くなっている気がします。特に量子コンピューターが普及すると各種実験に対するプロセスが大きく変わるため、治験(臨床実験)が劇的に早くなる可能性も指摘されています。
では認知症。日本の高齢者の15%程度、500万人が認知症とみられ、この比率は今後5-6年で20%ぐらいまで上がるという指摘もあります。世界規模では2015年で5000万人とされており、年間1000万人単位で増えるという報告もあるとのことですから今では1億人規模に手が届くということでしょうか?
認知症は案外、そばにいる人が一番気がつかないのかもしれません。理由は単なる老化の物忘れと混同し、自分の親がまさか認知とは思いたくないからでしょう。私の知り合いの母親が最近、高額の商品を次々と購入し、挙句の果てにクレジットカードを止められたというのです。銀行預金も大幅に目減りしているのに何に使ったかわからないらしく、その知り合いが「高齢者の親を持つと大変だよ」というので「それは認知症の公算大だよ、早く病院で検査してもらった方がいい」と背中を押したことがあります。その知り合いは認知症という発想を持っていませんでした。
私は医者ではないので認知症の仕組みは専門家に任せますが、問題は治療法がほとんどないことであります。メルク、イーライ リリー、アストラゼネカ、ロシュ、ノバルティスといった世界最大手製薬会社が大型投資をして治験をしてきましたがほぼ全滅状態にあります。製薬会社にとってこれほど薬を求められている症状(認知は病気ではなく症状です。)はなく、仮に薬ができればドル箱になるのですが、苦戦しています。
現在、唯一といってよいのがエーザイとバイオジェンの共同開発している早期アルツハイマー型認知症向け治療薬の治験で、最近その効果が再発見され、来年アメリカで承認申請をすることになっています。これももともと効果が見られなかったものがなぜか、やっぱりある認められたという不思議な話で果たして承認されるか専門家の間では疑心暗鬼の声も出ています。
では認知症に対して全く対策はないのでしょうか?私が感じるのは日本では様々な実験や効果がありそうなことを行っており、認知症予防大国に感じるのです。東北大学の川島隆太教授が著名で「脳を鍛えるドリルシリーズ」は案外、高齢者のご自宅には一冊ぐらいあったりします。仙台放送では川島教授と組んで脳トレの番組を放送したりしています。多くの老人介護施設では認知症予防のプログラムが紹介されています。毎年参加させて頂いている東京の国際福祉機器展でも認知症対策の機器、予防プログラムが数多く紹介されています。
ただ、学会というレベルではまだまだ国内規模であり、海外での研究は大幅に遅れている感じがします。ここ、カナダでも認知症に対する研究は進んでいないため、「認知症予防」などと銘打って何かやろうとすれば訴訟されかねない勢いなのであります。(学術的に効果が認められていないものにあたかも効果があるような表現をすることがダメなのです。)
ではカナダの認知症の方はどうなっているのか、といえばほぼ対策なしです。認知症の方を預ける施設も少ないし、あっても高額の費用を取られます。ご自宅でご家族が面倒みているケースでも家族がへとへとになっています。ひどい場合はご夫婦共に認知症ということもあり、悲惨さを増しているのです。私のかつてのクライアントも認知症なのに旦那は既に亡くなっていて娘も遠隔地で面倒すら見ません。いったいどうやって生活しているのかと心配でお住いのコンシェルジュに「何かあったら知らせて」とお願いしています。
認知症の対策はあるのか、といえば社会がそれを受け入れる体制が十分に整っていないように感じます。しかも世界規模の問題です。家や施設などを徘徊に対する予防法は電子ディバイスや顔認証システムの導入で対策が生まれてきています。が、人によっては凶暴性があったり、食事を延々に食べ続けるなど個別症状があります。
まずは社会が認知症の方への認識と対応を理解し、テクノロジーでカバーできる対策を取ったうえで認知症の人も安心安全な暮らしができる仕組みづくりが急がれます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年11月17日の記事より転載させていただきました。