『反日種族主義』に見る“請求権協定の真実”と“民主党の厚顔無恥なダブスタ”

高橋 克己

Amazonサイトより:編集部

予約していた「反日種族主義」が18日、アマゾンから配達された。350頁程だがペーパーバックなので軽い。大きくて重いと寝床読書派の筆者は困るが、サイズも手頃で掌に馴染む。早速、巻末にある著者のプロフィールと目次に目を通した。

李栄薫(編者)、金洛年、金容三、朱益鐘、鄭安基、李宇衍の執筆者6名の内、栄薫、洛年、安基、宇衍各氏の主張は李承晩TVで拝見し、栄薫と宇衍の研究は「大韓民国の物語」(文藝春秋)と九州大学学術情報レポジトリ「戦時期日本へ労務動員された朝鮮人鉱夫の賃金と民族間の格差」(参照拙稿:国連シンポで主張された「朝鮮半島出身労働者」研究の中身)でも読んだ。

そこで、朱益鐘の6編の論考(80頁)を目次からピックアップして読んでみた。本稿では、その内の請求権協定に関する以下2編についての要約と筆者の感想を述べたい。

第1部 種族主義の記憶

9 「もともと請求するものなどなかった-請求権協定の真実」(104頁~117頁)

10 「厚顔無恥で愚かな韓日会談決死反対」(118頁~129頁)

9 「もともと請求するものなどなかった-請求権協定の真実」

  • 韓国は35年間も植民地支配されたのに朴政権が65年に協定で受け取った無償3億ドルは、占領期間が短いフィリピンの5億ドル、インドネシアの2.33億ドルに比べて少なく屈辱外交だったとの考えがあるが、それは間違いだ。
  • サンフランシスコ平和条約で韓国は「日本から分離された地域」とされた。戦争被害国でない韓国に賠償する国際法は存在しない。
  • 請求権は日本にもあったので、李承晩は賠償でなく財産返還として8項目を請求した。
  • 朴政権は7億ドルを請求したが日本の主張は7千万ドル。他方、日本の半島資産は52億ドルでうち南に在った22億ドルを米軍政から受領した。
  • 個人請求権に関し協定は「今後、韓日両国とその国民はいかなる請求権主張もできない」とし、韓国はそれを認めた。(昨年10月末の)大法院判決は協定で韓国人労働者の「損害と苦痛」を扱わなかったとして慰謝料請求を認めたが、そうとは言えない。
  • 第5回会談で韓国は「日本が他の国民を強制的に徴用し精神的肉体的に苦痛を与えたことに対し、相当する補償をすべし」と要求するも、日本は、負傷者や死亡者でない生還日本人には補償しなかったので当時日本国民だった韓国人も同様に扱うとし、韓国もそれを容認した。
  • 韓国国会は協定を批准し、歴代政府も数十年間遵守してきたのに、司法府の何人かが覆すのは正当なことではない。国際的な外交問題では「司法自制の原則」がグローバルスタンダード。

10 「厚顔無恥で愚かな韓日会談決死反対」(118頁~129頁)

  • 64年春、民主党などの野党政治家が学生らと朴政権の韓日会議推進に反対した。大学生らはよく分からずに屈辱売国外交というが、民主党の政治家がそう罵倒するのは厚顔無恥。彼らの張勉政権も同じ様に国交正常化を推進した。
  • 60年に李承晩が倒れ民主党政権になると和解が進んだ。8項目請求を詰めてゆくと韓国の請求額が少額になるので、張勉政権は「もともと植民地下の韓国人の苦痛、損害の賠償も要求するつもりだったが、8項目だけにした」との論理を展開したが、オウンゴールだ。
  • 政権は個別項目、例えば5項で日本側を納得させる根拠を提示できなかった。徴用労務者の未収金5億万円を要求したが、日本側に根拠を聞かれても答弁できなかった。
  • 朴正煕もクーデター当初は混乱で会談推進ができなかったが、63年12月に大統領となり進捗させた。すると野党になった張政権の政治家が翌年3月、協定反対に立ち上がり財産請求権15億ドルと賠償金12億ドルなどを掲げた。
  • 学生や市民らも加わってデモが頻発しソウルの治安が麻痺すると朴政権は64年6月3日、戒厳令を布いた。会談は1年遅延したが、朴政権は65年8月、与党単独で韓日協定の国会批准を強行した。
  • 張勉政権でも同じ方式で協定締結していたはずだ。張勉は61年1月、東亜日報に「年内に国交正常化が必ずなされると強調し、むやみに日本政府や国民と感情的に多入りするのは失策」と述べた。文在寅政権の「私がすればロマンス、他人がすれば不倫」と同じ厚顔無恥だ。
  • 反対者らは協定すれば韓国が日本の支配を受けるといった。今も韓国は対日貿易赤字だが韓国経済は発展し韓日格差は縮まった。韓国は日本の資本、技術、設備、中間材を取り込んで加工し米国に輸出して韓米日の三角構造で経済発展した。
  • 日本も経済協力で利益を得た。国交正常化で両国が利益を得たのだ。国交が正常化すれば韓国は日本の政治的、経済的植民地になるという反対論者の予言は、愚かさの至りに過ぎなかった。

以上が概略だが、本書はこの2編をみる限り、もちろん十分にためになるが、純然たる研究書というよりは、これまで日韓問題の真実に触れてこなかった韓国国民への入門書の趣が強い。

だが、それもこの13日にソウル地裁で弁論が始まった、3年前に元慰安婦らが日本政府を訴えた損害賠償訴訟に関して、日本人サポーターの一人山本晴太弁護士がネットに上げている「“慰安婦”訴訟における主権免除」なる詳細な論文 などと比較しての話だが・・。

例えば山本論文は冒頭部でこう書いている。(一部を要約)

ドイツは第2次世界大戦時の被害を「補償」の対象と「賠償」の対象に分類した。前者はユダヤ人虐殺に代表される「ナチスの不法」による迫害の被害で連邦補償法などの国内法を制定した。後者は武力紛争時の民間人虐殺や強制労働など一般戦争行為による被害で、53年のロンドン債務協定で、平和条約が締結されて賠償が最終的に解決されるまで解決が猶予されたとし放置した。

これに倣えば、韓国とフィリピンとインドネシアの事案が各々「補償」と「賠償」の何れに当たるか言及が要る。朱氏はそこにまでは踏み込んでいないが、韓国のケースが「補償」にも「賠償」にも当たらないことを前提としている。

朱氏が、昨年の大法院判決は協定で韓国人労働者の「損害と苦痛」を扱わなかったとして慰謝料請求を認めたが、そうとは言えないとして、第5回会談で韓国が「精神的肉体的に苦痛」に言及したことを書いているのは興味深い大法院への反論だ。

また別の慰安婦の項(21)では「会談が続いていた13年間、韓国政府は慰安婦問題を取り上げたことがありません」と書いている。韓国が「慰安婦を被害者と見ていなかった」証左だとの文脈だ。が、53年5月19日の交渉議事録には以下のように「(四)南方占領地域慰安婦の預金、残置財産」という項目に「韓国側から簡単な説明があり、日本側との間に事実問題に関する質疑が行われた」とある。

ここでの慰安婦は、大法院の言うような意味で賠償の対象となる被害者ではなく、8項目第5項にいう単に「未収金」を有する者に過ぎない。従って、慰安婦も請求権協定で解決済みなのだから、13日からのソウル地裁の裁判でもこの議事録が有力な証拠となるだろう。

ブログ「続・慰安婦騒動を考える」より引用

民主党張勉政権の「厚顔無恥で愚かな韓日会談決死反対」ぶりを書いているが、我が国の民主党と重なるし、「文在寅政権の“私がすればロマンス、他人がすれば不倫”と同じ厚顔無恥だ」と併せて、民主党はどこの国でもダブスタだなあ、と思わずニヤリとしてしまった。

「韓国は日本の資本、技術、設備、中間材を取り込んで加工し輸出して経済発展し」、「日本も経済協力で利益を得た」は、協定の第一条が、有償無償5億ドルの使途を「日本国の生産物及び日本人の役務」でかつ「大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない」としていることに因る。

戦後74年間、紆余曲折を経つつも西側で確固たる地位を築いた韓国が、今、先祖返りして中国の下に走ろうとしていることを、韓国国民は果たして認識し、受け入れているのだろうか。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。