この一月あまり海外の仕事が多かったが、帰国してニュースを見て驚いた。沢尻エリカが薬物所持で逮捕されたが、それをメディアが嬉々として伝えていたからだ。
逮捕前日のプライベート映像をテレビ局が撮影し、逮捕後も毎日、10年前からだった、色々な薬物を使っていた、下着に隠していたとニュースを重ねている。どう考えても警察が捜査情報を漏らしているとしか思えないが、どうしてメディアはこんなニュースを続けるのだろう。
まずは原則から。警察に逮捕されること、すなわち有罪ではない。推定無罪の原則があるから、判決が出るまでは無罪として扱うのがルールである。警察からの情報を伝えることで有罪の方向に世論を誘導しているメディアは沢尻エリカの人権を侵害している。
しかし、間違いなく有罪だろう。だが、刑が終えた後の社会復帰にもこのような報道は有害である。「足を洗えない人」という強いイメージを世の中に残してしまうからだ。将来の可能性を狭めるという点でもメディアは人権侵害を侵している。
白い粉の映像を流し、渋谷のクラブで……と伝えることは、薬物から抜け出したいと戦っている人々に悪影響がある。再使用したいという刺激を与えるからだ。判断能力がまだ育ちきっていない若者が薬物を試してみたいと思う恐れもある。
薬物依存は病気である。ギャンブル、アルコール、ニコチンからゲームまで、依存には多様な形態があり、それらはWHOの疾病分類で依存症として一括りにされている。薬物依存も依存症の典型である。
病気は治療が最優先だが、メディアにはその視点が欠如している。多くの国は薬物依存症患者に対して治療的司法を施す方向に動いている。このことは以前にアゴラで記事にした。メディアも世界の潮流を理解した上で報道すべきだ。少なくとも警察の片棒を担ぐことは恥とすべきである。
山田 肇