金融機関から金融機能へ

現在の金融庁は、金融サービスの利用者の視点、即ち国民の視点に徹する姿勢を貫いている。つまり、金融庁の役割は、もはや金融機関を監督することではなくなり、国民の利益の視点で金融機能を強化することになったのである。

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さて、金融機能は金融機関よりも大きな視点である。金融機関が提供する金融サービスは、金融機能の全体を包含するものではないからである。むしろ、社会全体で利用されている金融機能のうち、金融機関によって提供されているものは、ほんの一部にすぎないともいえる。

例えば、ある商品の売買について、原則は代金と商品の交換決済だが、現実社会では、商品の決済を先に済ませて、代金の決済を繰り延べることが普通に行われている。これは、実は、繰り延べ期間中、売り手が買い手に対して融資しているのと同じ経済効果があり、事実、取引の当事者は、金融取引としての自覚をもって行為し、売買条件に金融費用を加味しているはずである。

こうした取引形態は、商取引と金融取引を統合したものとして、極めて長い歴史をもつ。むしろ、二つの取引を分離して、金融取引を独立させたことから、金融を専業に行う金融機関が創出されたのだと思われる。

金融を独立させる一つの方法は、独立した貸金業者を介在させて、買い手が貸金業者から代金相当額を借りて、現金決済することである。また、別の方法は、売り手が買い手に対してもっている代金請求債権を、債権買取りを専業に行う金融機関に売却することである。ここでは、前の方法が買い手に対する金融であるのに対して、後の方法は売り手に対する金融になっている点に注意がいる。

こうして、商取引に内包されていた金融機能は、独立させられたときに、二つの異なる金融形態を創出し、それぞれに、専門の金融機関を生み出したのである。金融機関が先にあって、金融機能が生まれたのではなく、金融機能が先にあって、その機能分離と高度化の過程で、専門業者としての金融機関が創出されたということである。

故に、金融行政の転換の意味は、金融の原点への回帰なのである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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