GSOMIA破棄通告停止は姑息な時間稼ぎ、ボールは依然として韓国に在る

高橋 克己

「卑怯なさま、正々堂々と取り組まないさま」の意で使われるとして、しばしば誤用の最たる事例に挙げられる「姑息」の正しい意味は「根本的な対策に取り組むのではなく、一時的にその場が過ぎればいいとする様子」(新明解国語辞典)だが、今回の韓国の対応にはこの正誤の用法が両方ともズバリ当て嵌まる。

記者会見する韓国の金有根・国家安保室第1次長(KTV YouTubeより:編集部)

GSOMIA失効が6時間後に迫った22日18時、韓国青瓦台の金有根国家安保室第1次長は次のように発表した。

政府はいつでもGSOMIAの効力を終了させることができるという前提の下に(8月22日に決定した)GSOMIA終了通知の効力を停止させることにした。韓日間の輸出管理政策対話が正常に行われる間、日本側の3品目輸出規制に対する世界貿易機関(WTO)提訴手続きを停止することにした。

(23日8時過ぎの朝鮮日報「GSOMIA条件付き延長、破局回避」を引用)

だが、22日夜に来日した康京和外相は、「時間稼ぎができた」との趣旨を述べて(きっとうっかり)韓国の本音を漏らしてしまった。彼女はある意味で正直なのかも知れないが、これと正反対にあれこれ言い募る与党の姜昌一日韓議連会長なども含め、韓国の政治家はかなり残念なレベルのように思う。

22日夜、日本に向かう空港で記者の質問に答える韓国の康京和外相(KBSニュースより:編集部)

さて、ひとまず日韓GSOMIAは失効しなかったが、青瓦台は「輸出管理政策対話が正常に行われる間」との条件を付けた。韓国はこれで手元のボールを日本に投げ返したつもりかも知れぬ。が、生憎そうはならない。よく考えれば判ることだが、ボールは相変わらず韓国側に鎮座している。

23日午後、会談に臨む茂木敏充外相と康京和外相(KBSニュースより:編集部)

日本が7月初めに先端素材3品目の個別管理化といわゆる「ホワイト国外し」の措置を韓国に対してとった理由は、極めて不明瞭な3品目の使途などについて、日本が韓国に再三再四説明を求めたにもかかわらず、3年間にわたってそれに応じなかったことにある。

青瓦台のいう「輸出管理政策対話」とは、本年7月以前に3年間行われなかった説明を、韓国が日本に対して改めて誠実に行うことを意味せねばならない。韓国はまたあれこれと「こじつけ」をいうだろう。が、日本にとっての「輸出管理政策対話」にそれ以外の意味はないし、また持たせてはならない。

文大統領は19日に行った「国民との対話」の場で、「(韓国は)とても多くの費用を使って日本の安保に役立っているが、日本が輸出を統制して韓国を安保上信頼できないという理由を挙げた」。「韓国を安保上信頼できないとしながら軍事情報は共有しようと言うなら、それは矛盾した態度で、韓国としては当然の態度を取った」と述べた。(中央日報より引用)

この発言などは、韓国伝統の「牽強付会」、解り易くいえば「こじつけ」の典型と言わねばならない。日本の韓国に対する輸出管理強化は、確かに経済産業省が「安全保障貿易管理」の一環としてとった政策だ。経産省は「安全保障貿易管理」とは何かをこう説明している。(経産省サイト

我が国をはじめとする主要国では、武器や軍事転用可能な貨物・技術が、我が国及び国際社会の安全性を脅かす国家やテロリスト等、懸念活動を行うおそれのある者に渡ることを防ぐため、先進国を中心とした国際的な枠組み(国際輸出管理レジーム)を作り、国際社会と協調して輸出等の管理を行っています。我が国においては、この安全保障の観点に立った貿易管理の取組を、外国為替及び外国貿易法に基づき実施しています。

だが、文大統領が「(日本が)韓国を安保上信頼できない(とした)」と述べるような事実は(内心は別として)ない。日本は韓国の貿易管理が信頼できないとしいるのであり、それは7月1日に経産省が公表した「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」の以下の文言に明らかだ。

経済産業省は、外国為替及び外国貿易法(以下、「外為法」)に基づく輸出管理を適切に実施する観点から、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行います。

輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されていますが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況です。こうした中で、大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、輸出管理を適切に実施する観点から、下記のとおり、厳格な制度の運用を行うこととします。

ここには「安保」の「あ」の字もない。措置は「日韓間の信頼関係が著しく損なわれた」からであり、「不適切な事案が発生した」からだ。そして、その不適切な事案が「安全保障貿易管理」に極めて重大な支障をきたす「特定品目」、すなわちフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の取り扱いだった。

しかも日本の措置は金第1次長のいうような「輸出規制」などではなく「包括輸出許可から個別輸出許可への切り替え」に過ぎない。7月1日の前記公表文にはこうある。

特定品目の包括輸出許可から個別輸出許可への切り替え

7月4日より、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の大韓民国向け輸出及びこれらに関連する製造技術の移転(製造設備の輸出に伴うものも含む)について、包括輸出許可制度の対象から外し、個別に輸出許可申請を求め、輸出審査を行うこととします。

こうして改めて事実関係を追ってみると、韓国の言い分が如何に「こじつけだらけ」であるか、そして韓国がいつまで「時間稼ぎ」ができるかも韓国次第である、ということがよく解る。先の朝鮮日報記事も「GSOMIAが破棄される局面はひとまず防いだものの、日本の韓国に対する輸出規制を解除しなければ、いつでも最悪の状況が再燃する可能性があるということだ」としている。

「再燃する可能性」をなくすのは何も難しいことでない。韓国が3品目の「輸出管理をめぐる不適切な事案」の経過と内容、そしてその輸出管理を今後どう適正化するかを日本側に誠実に説明すれば良いだけだ。日本は今後の韓国の改心ぶりを見た上で、どうするか態度を決めれば良い。

いつもの通りの往生際の悪さは哀れをとどめるが、ボールは依然として韓国に在る。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。