首里城火災検証(後編)日本でメスが入らない真の問題

牧 功三

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防火対策は有効であったか

琉球新報(11/1)によると、首里城に設置されていた防火設備は消火器、屋内消火栓および消火栓ポンプユニット、放水銃5組(のちの報道によると1組は撤去されていた)、ドレンチャー設備74か所である。これらに加えて自動火災報知設備があったものと思われる。

琉球新報より引用

このうち消火器、消火栓、放水銃は誰かが火災時に建物内あるいは建物の近くに行って手動で操作しなければならず、火の回りが早いときは(今回もそうであったと思われるが)危険が伴うため操作は非現実的である。ドレンチャー設備は周囲の建物から正殿への延焼防止に設置されていたが、正殿における火災は想定されておらず、今回の火災では有効に機能しなかったようである。

NHK(11/3)によると正殿1階の北側の焼け跡から見つかった分電盤にショートした痕があったとことである。火災予防としては分電盤等の電気設備の周囲には可燃物を一切置かないことが重要であり、できれば分電盤等は防火区画された専用の小部屋に設置することが望ましい。また電気設備の点検として定期点検および日常の目視点検に加えて赤外線カメラを使った検査が有効とされている。

焼失した首里城北殿(11月、編集部撮影)

経済的損害防止は防火の「おまけ」ではない

琉球新報(11/1)によると、文部科学省が文化財にスプリンクラーの設置を推奨する文書を配布したにも関わらず管理者である美ら島財団は把握していなかったとのことである。一般にスプリンクラー設置費用は非常に高額であり、建物オーナーとしては法規制にかからなければ設置を避ける傾向にある。

筆者の経験上、大幅な保険料割引等の実質的なメリットがなければ、オーナーが数千万円~数億円の費用をかけてスプリンクラーを設置するケースは少ないと言ってよい。日本では防火と名のつくところは全て行政が関わってくるという印象であり、経済的損害防止の仕組みはないも同然である。規制以外の部分は「おまけ」のような扱いであり、「おまけ」に数億円の投資をするオーナーがいないのは当然のことである。

日本の防火関係者の中には「経済的損害防止などは勝手にやればいい」と主張される方がいるが、これは無責任な暴論である。防火やリスクに関しては素人の建物管理者やオーナーが「勝手にやる」ことはあり得ない。防火やリスクの専門家が経済的損害のリスクに応じて対策がなされるような仕組みをつくり知見を積み上げてこなかったことの方が問題である。

実は日本でも1970~80年代に欧米を真似て、損害保険協会料率算定会(現在の損害保険協会料率算出機構)がスプリンクラーの「算定会基準」なるものを設けていた時期があったが、技術的にも中途半端で保険料の割引率も低くほとんど普及せずに終わっている。

なぜ法規制にこだわるのか

本来、法規制は人の安全(とくに不特定多数の安全)のための最低限度の要求であるべきであるが、日本では防火と名のつくところにはやたらと行政が口を出してくる印象だ。建物管理者やオーナーの裁量で決められる部分は少なく、法規制が最低限度の要求であるとはとても言い難い。

既に気づいている方もいると思うが、防火に関する設備、査察、点検、資格、講習等には重複しているもの、効率的ではないもの、明らかに役に立たないものが多いが、これらは法規制を根拠としてコンスタントにお金をおとさせる「規制ビジネス」が一番の目的となっていると考えてよい。

首里城火災当時のNHKニュースより

防火対策として実際にどのくらい有効に機能しているのか、費用対効果は出ているのかを考慮しているとはとても言い難い。現在の法規制中心のやり方は1960年頃に消防検定制度ができた頃に始まっており、この制度自体が「規制ビジネス」を目的としたものと考えられる(実は1960年以前は日本も他国と同じやり方をしていた)。

こういった問題を大手メディアが取り上げることはないと思うが、ここにメスを入れて行かないと日本の防火が良くならないことは明らかである。

牧 功三(まき・こうぞう)
米国の損害保険会社、プラントエンジニアリング会社、米国のコンサルタント会社等で産業防災および企業のリスクマネジメント業務に従事。2010年に日本火災学会の火災誌に「NFPAとスプリンクラー」を寄稿。米国技術士 防火部門、米国BCSP認定安全専門家、NFPA認定防火技術者