政局化した「桜を見る会」
安倍首相主催の「桜を見る会」が11月8日の参院予算委での共産党田村智子議員の「私物化疑惑」追求をきっかけに、政界を揺るがす大問題となり、安倍首相の進退にもかかわる政局と化した。
立憲、民主、共産などの野党各党は、この問題について野党合同の「桜を見る会疑惑追及本部」を立ち上げ、議員80人態勢で徹底追及している。立憲民主党幹事長の福山哲郎本部長は、この問題の徹底追及による「倒閣」を宣言している。
「桜を見る会」に特段の違法性は存在しない
「桜を見る会」は1952年から毎年行われてきた首相主催の恒例の行事であるところ、野党側は、安倍首相に対して、ここ数年多数の地元後援会員らを招待し、税金で接待したとの「私物化疑惑」や「公職選挙法違反疑惑」「政治資金規正法違反疑惑」などを徹底追及している。
しかし、特段の「功績者・功労者」に限らず、税金を使って議員の後援会員らを多数招待し接待していた事実は、2010年の旧民主党鳩山政権時代も同様であり、長年の慣行慣例となっていたから、鳩山政権時代も特段「私物化の認識」や「違法性の認識」はなかったと思料される。
安倍政権も同様であるから、安倍政権に対してのみ「私物化」や「違法性」を認めることは相当ではない。安倍政権による「桜を見る会」の運営について、法律上、特段の「私物化」や「違法性」を認めるに足りる事実も証拠も存在しない。
上記理由により、特段の「可罰的違法性」は存在しないのみならず、公職選挙法違反の「買収」の故意や「寄付」の故意(刑法38条1項)を認めるに足りる事実も証拠も存在しないことは明らかである(2019年11月17日付け「アゴラ」掲載拙稿「桜を見る会疑惑の法的検討:買収罪は成立するか」参照)。
なお、招待者18000人のうち、結果としての「反社会」の参加が問題にされるが、更生者の可能性もあり、直ちに「違法」とは認められず、到底官房長官の進退にかかわるような問題でない。社会的非難を受けた「問題企業」の参加についても、今後の選定プロセス上の課題ではあっても、直ちに「違法」とは認められない。
また、「安倍首相推薦枠」や「安倍夫人推薦枠」が問題とされるが、仮に「推薦枠」があったとしても、安倍首相主催の「桜を見る会」である以上、安倍首相については勿論のこと、安倍首相夫人についても、特段「違法」とは認められない。なぜなら、推薦に基づく招待者の法的な最終選定はあくまでも内閣府の権限であり、首相及び首相夫人は最終選定者ではないからである。
なお、参加した安倍後援会員らは、「桜を見る会」を含めたトータルの旅行代金を直接旅行代理店に支払っており、「桜を見る会」自体も無償ではない。旅行代金は各参加者による旅行代理店への直接支払いであるから、安倍事務所の「収入」には該当しない。したがって、政治資金収支報告書への記載義務はない。
これに関連して、安倍首相の「招待者の取りまとめには関与していない」との「虚偽答弁疑惑」が問題とされるが、安倍首相主催の「桜を見る会」について、安倍首相が安倍事務所から招待者の推薦過程で意見を求められれば意見を述べることも当然あり得ることであり、「関与していない」とは、内閣府による招待者最終選定には関与していないとの趣旨と解されるから、「虚偽答弁」には該当しない。
以上によれば、安倍政権による「桜を見る会」の運営について、特段、「私物化」や「違法性」を認めるに足りる事実も証拠も存在せず、公職選挙法違反、政治資金規正法違反等の「買収」「寄付」等の「犯罪行為」を認めるに足りる事実も証拠も存在しないことは明らかである。
「前夜祭」にも特段の違法性は存在しない
「桜を見る会」の前夜にホテルニューオータニで開催された安倍晋三後援会主催の「前夜祭」(夕食会)については、一人5000円の会費は安すぎるから、不足額を安倍事務所側が「補填」した公職選挙法違反(「寄付」)の「疑惑」があると、野党側は追及している。
しかし、ホテルの会費は、参加人数の多寡、料理の質と量、政治的パーティ等で継続的に利用する得意客かどうか、などさまざまな要素を勘案して個々のホテル側が独自に判断し設定する自由裁量であるところ、本件の場合は、
- 毎年当該ホテルが会費5000円で安倍後援会の「前夜祭」に継続的に利用されてきた実績があること
- 当該ホテルに宿泊した参加者も少なくないこと
- 安倍事務所は当該ホテルにとっての「得意客」であり信頼関係があること
- 参加者が800人にも達し「団体割引」もあり得ること
- 東京の一流ホテルと言えども、ホテル間の競争や顧客の奪い合い、サービス合戦は激烈であること
などの諸事情を総合的に考えれば、一概に会費5000円が「安すぎる」とは認められない。ホテル側はビジネスとして採算がとれると判断したからこそ毎年安倍事務所と会費5000円の契約を締結しているのである。これらは正に「商慣習」の世界であり、ホテル側の価格設定に対して、第三者が非難干渉すべき事柄ではない。「契約自由の原則」は民法及び商法の大原則である。
ちなみに、同ホテルの代表取締役常務で東京総支配人の清水肇氏は「週刊文春」の取材に応じ、「5000円が安いと言われても、うちがそれで引き受けているんだから。シーズンや空き状況によっても値段は変動する。こちらだって商売なんだから、予算に応じて検討しますよ」と述べ、「政治家割引はあるのか」との問いに対して、「そりゃ、いきなりお願いされるのと、今までお付き合いがある人とは違いますよね」と述べている(「週刊文春」11月28日号)。
まさに「契約自由の原則」であり「商慣習」である。到底「違法」とは認められない。
以上によれば、特段、会費5000円が安すぎて「違法」であるとは認められず、「違法」であることを認めるに足りる事実も証拠も存在しない。そうすると、安倍事務所が不足額を「補填」した事実は認められないから、「補填」したことを前提とする公選法違反(「寄付」)の事実も証拠も存在しない。
また、ホテル側が、安倍事務所側に便宜を図り、特別に会費を安くすれば、ホテル側の「違法政治献金」や「贈賄」に該当し、安倍事務所側においても公選法違反、政治資金規正法違反、刑法贈収賄罪にも該当するとの説がある。しかし、これらはすべて、確たる証拠に基づかず、「推測」に「推測」を重ねた架空の「疑惑」に過ぎず、これらの「犯罪行為」を認めるに足りる事実も証拠も存在しない。
さらに、ホテル側が安倍事務所にあらかじめ領収書を発行し、交付することはあり得ないこと、安倍事務所による参加者からの集金は政治資金規正法上の「収入」に該当すること、安倍首相をはじめ安倍事務所が前夜祭の会費を支払っていなければ「無銭飲食」になること、などを理由に安倍事務所側に公選法違反、政治資金規正法違反等の「疑惑」があるとの説がある。
しかし、ホテル側と安倍事務所は毎年会費5000円で継続して「前夜祭」を実施してきた実績があること、毎年安倍事務所が会場で参加者から会費を集金し、安倍事務所は集金後ホテル側に集金した金額をそのまま即日渡していること、「前夜祭」参加者の数は事前のアンケート調査によって把握できること、などの諸事情を考えれば、「安倍事務所は不正をしない」との強固な信頼関係が、ホテル側と安倍事務所側に存在したと認められる。
したがって、事前の領収書発行や安倍事務所への領収書交付が「違法」とは認められないのみならず、集金額をそのまま即日ホテル側に渡しているから、安倍事務所の「収入」に該当しないことは明らかであり、政治資金規正法違反は存在しない(2019年11月21日付け「アゴラ」掲載拙稿「桜を見る会安倍首相の説明は納得できる」参照)。
「無銭飲食疑惑」については、「無銭飲食」の故意(刑法38条1項)を認めるに足りる事実も証拠も存在しないのみならず、「可罰的違法性」自体が到底存在しない。
ちなみに、上記清水肇氏も「5000円の領収書だって、お客さんに言われれば出しますよ。ホテルというのは、お客さんに頼まれれば何でもするんです。その日のうちにちゃんと入金があったと聞いています」(上記「週刊文春」)と述べている。これも当事者間の「契約の自由」に他ならず、第三者が非難干渉すべき事柄ではない。
倒閣のため悪意の推測に推測を重ねた野党側の「疑惑追及」
以上に詳述した通り、本件「桜を見る会」及び「前夜祭」に対する野党側の「疑惑追及」の「疑惑」なるものは、いずれも、確たる証拠もなく、ひたすら「倒閣」のためには手段を選ばず、悪意の推測に推測を重ねた架空の「疑惑」に過ぎず、法的に公職選挙法違反、政治資金規正法違反、刑法違反等の「犯罪行為」の成立を認めるに足りる事実も証拠も存在しないことは明らかである。
「桜を見る会」及び「前夜祭」には、いずれも特段の「違法性」は存在しない。
加藤 成一(かとう せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。