AIホスピタルプロジェクト:この1年余の成果と課題

12月2日と5日の午後に内閣府「AIホスピタルプロジェクト」の評価委員会がある。プロジェクト本格的開始から1年と2か月、私の期待を超えるレベルで成果を挙げている研究計画が多く、感謝している。

特に、熱心な病院スタッフの試みによって、私が考えていなかった成果を挙げているのが、慶應義塾大学附属病院と国立成育医療研究センターである。慶応病院では、人工知能ロボットをPET検査に導入して、放射線同意元素を注射されたあとの被験者に対応するシステムの検証が始まっている。

近未来のAIホスピタルシステムの構築

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所サイトより編集部引用

もちろん課題はあるが、医療従事者の被ばくを回避する観点で極めて重要である。また、夜間の薬剤部から病棟への薬剤や血液の運搬に、人工知能ロボットを活用し始めている。導線が複雑で長い病院には必要だ。人工知能ロボットをエレベーターと連動させるなどの工夫が必要だが、夜間の負荷軽減には大切だ。さらに、妊婦さんの超音波画像や患者さんの処方情報をスマートフォンに送るサービスも開始されている。

そして成育医療研究センターでは、小さな子供さんが鎮静薬や麻酔を受けなくても。静かに検査を受けるために、看護師さんを補助する人工知能ロボットを利用する試みが開始されている。小さい子供には説明してもわからないので、眠らせて、母親に監視してもらうのではなく、いろいろな方法で小さな子供さんにも理解してもらおうとする試みである。これによって、鎮静剤などの投与を減らすことすることができれば、その意義は大きい。

そして、私が最も必要だと考えるようになったことの一つが、医療が必要な子供さんに対して自宅で介護しているお母さんたちの負担軽減だ。最近の医療技術の進歩によって、いくら小さく生まれてきても命を救うことのできるようになった。

しかし、いろいろな合併症・後遺症が残るケースが少なくなく、医療が必要な新生児・乳児が増えてきている。その子供たちは自宅で主にお母さんによって介護される。センサーなどでのモニタリングによって、重症例では、お母さんが断続的にしか眠ることができていないことが成育医療センターの調査で明らかになっている。子供さんに対する介護保険はないので、現時点では、自宅での介護は両親に頼るしかないのである。

種々のセンサーを活用し、AIやIoT技術を駆使することによって、家族がゆっくりと眠ることができるようなシステムができればいいと願っている。AIホスピタルプロジェクトを通して、医療現場や介護現場などで必要なAI技術が、きわめてたくさんあることを学んだ1年間であった。これらを一般的なものに普及するには、様々な壁がある。残り3年、実装化を目指して頑張っていきたい。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年12月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。