森ゆうこ氏懲罰請願:実は安倍政権の「改革本気度」が問われている

新田 哲史

きのう(12月2日)は原英史さんから下記のご報告があったように、森ゆうこ参議院議員の懲罰等の検討を求める請願書を山東昭子議長宛てに提出した。維新の浅田均政調会長が紹介議員になってくださり、無事に手続きを完了した。

請願と署名を提出(左から加藤康之さん、岸博幸さん、原さん、浅田政調会長、高橋洋一さん、筆者、以上浅田氏ツイッターより)

筆者も賛同人の一人として浅田事務所での打ち合わせ、さらに提出後の会館地下の会議室での記者会見に出席した。産経新聞、時事通信、共同通信などの記者が集まってくださった。この場を借りて、皆さまにあらためて心より御礼申し上げたい。

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記者会見では末席の賛同人に過ぎない私のコメントが記事に採用されるはずもないので、記者の皆さんの今後の参考になるように、唯一のメディア側からの登壇者としてメディア視点からのヒントを意識して話した。

残念ながら「桜を見る会」のほうにばかり関心が集まっているご時世、朝日新聞などの左派メディアの不在が目立ったが、この問題は国会議員の特権を振りかざした人権侵害であることから、「党派性」を抜きに考えるべきだということを強調した。

(記者会見の同録はネット放送局「文化人放送局」の動画をご参照)

また、国民民主党のガバナンスの問題も指摘した。具体的には、①住所漏洩に関して玉木代表が謝罪したのに森氏本人からの謝罪がないのはおかしいことと、②玉木氏の謝罪文が個人ブログの掲載にとどまり、党のHPにアップされておらず、森氏ら小沢氏一派に気兼ねするような事情があると思われても仕方ない、などと指摘させてもらった。そのあたりはすでにアゴラにも書いた通りだ。

国会の「欠陥」を乗り越えられるか

さて、本当の勝負はここからだ。この請願をどう取り扱うか、会期末となる来週月曜(9日)までに決めなければならない。請願では、関連委、今回は問題発言のあった予算委で受け持つことになるはずだ。

しかし率直にいえば、この請願が採択されるかと言えばハードルが非常に高い。最大の難関は、多数決で法案の成否を決めるのが国会というのに、請願については全会一致でなければ採択はされない。しかも法的に明文化されたものではなく、長年の「慣習」というから呆れてしまう。

参議院インターネット中継(11月7日)より

もちろん、少数意見を尊重するといった先人の知恵の積み重ねがあることは否定はしないが、仮に予算委に請願が回されても、議案の取り扱いを審査する理事会には、森氏当人が理事として“鎮座”している(参照:予算委員会名簿)。仮に森氏以外の野党理事が賛成し、委員会で採決の俎上にあがるところまで持ち込めたとしても「全会一致で採択」の慣習に則れば、利害当事者の一票で不採択になりかねない。

参議院 請願の提出から採択までの流れ

参議院サイトより

企業の取締役会で社長の解任動議が出た場合は、特定の利害関係があるとして社長の取締役は議決権を有しないが、請願の採択を巡るシステムはそういう除外ルールはないようだから(国会議員の方、間違っていたらご指摘ください)、原さんの言うように「重大な欠陥」を有していることになる。

仮に審査を通過できたしても、維新以外の野党は反対に回るだろう。それでもどの党、あるいはどの議員が採択に賛成し、あるいは反対したかを可視化するだけでも意義は小さくない。

野党はともかく、核心は自民党がどう対応するか

そこでもうひとつ核心に迫ることになる。ここまでアゴラでは森氏や国民民主党、森氏に同調するほかの野党議員の対応をさんざん非難してきたが、最後は政権与党の「真価」が試される(そもそも維新だけでなく、政権与党の自民党こそ請願に協力するのが筋だ)。

もし理事会の審査を通り、請願に賛成してくれれば、自民党は森氏の不誠実に厳しく臨んだという記録が残るだけではない。国家戦略特区WG座長代理を務め、7月までは規制改革推進会議委員を務めた原さんの名誉を守ろうとしたことになり、規制改革への本気度を示すことにもつながる。

一方で、政治の冷酷かつおぞましい「シナリオ」も耳にする。それは請願の審査を時間切れにして審査未了のまま、ゴミ箱行き(保留という名の廃案)にするというものだ。これなら国民民主党が森氏の顔を立てられるだけではない。自民党も「何事もなかった」ことにして頰被りできるからだ。

自民党・森山国対委員長(NHKニュースより)

しかし、まさかとは思うが、そんな不誠実なことをすれば、規制改革への姿勢に致命的なまでに疑義がつきまとうであろう。もちろん国会議員の免責特権による人権侵害を実質放置したことにもなる。

原さんが毎日新聞や森氏ら野党議員にあらぬ嫌疑をかけられてから、政府の規制改革推進会議の委員を務める有識者たちの間では、「原さんみたいなことをされたら身が持たない」という懸念が広がっているとも聞く。ことと次第によってはまともな人が委員を受けてくれなくなるのではないか。

ただし、これもまさかと思うが、そこもまた誰かの「筋書き」なのだろうか。森氏や毎日新聞の背後で「黒幕」がいるのかはまだ明らかではないが、磯山友幸氏が指摘する「改革に抵抗する霞が関の官僚」だった場合、有能な民間の有識者が委員にならないような空気づくりは、まさに抵抗勢力の思うツボだ。

ここまでは「冷淡」な安倍政権

原さんへのバッシングとの関連は定かではないが、実際、原さんが規制改革推進会議の委員だったとき討議されていた改革策の「後退」も露骨になっている。典型的なのがNHKのネット同時配信だ。

6月の放送法改正で正式決定し、年度内の来年3月スタートを予定していたのに、内閣改造後の11月、総務相に復帰した高市早苗氏が突然「待った」をかけた。名目こそNHKのガバナンス改革不足だが、放送の専門家からも「一定の筋が通ってはいるが、客観的に見て今更としか言いようがない」(境治氏:ヤフーニュース個人)という声があがるなど、不可解なものが感じられる。

2019年4月の桜を見る会で挨拶する安倍首相(官邸サイトより編集部引用)

振り返れば、アベノミクスの3本の矢(①金融政策、②財政政策、③成長戦略)のうち、①と②で景気を浮揚させて③の構造改革に臨む意気込みだったのに、③が最も早く折れてしまったという批判は政権初期から絶えなかった。実際「3本の矢」は政権発足から3年でいつのまにか「新3本の矢」(①強い経済②子育て支援③社会保障)に取って代わってしまった。

政府の規制改革推進に尽力してきた原さんを「孤立無援」に追い込んでいる現下の状況を鑑みれば、政権与党が実質的に黙殺している。もちろん自民党内でも個々の議員で改革の志を持ち、原さんをなんとか支援したいという思いをにじませるかたは何人もいるが、少なくとも官邸や国対が“救出”する姿勢は微塵も感じられない。

森ゆうこ氏の問題が起きた当初、自民国対が野党に同調したのは、今国会中の国民投票法改正案の成立を目指す上で、野党の日程闘争を恐れているからともみられていたが、改正案は結局棚上げになった。“重し”が取れた中で政権与党は請願にどう対応するのか。ネットの自民支持層の中でも不信感が募り始めているが、署名をくださった66,624人が固唾を飲んで見守っている。

(訂正12:45)審議未了→審査未了、廃案→保留という名の廃案

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」