12月2日付、観光経済新聞の記事「創立80周年を祝う JASRACが記念式典」は、11月18日に創立80周年を迎えたJASRACが、同日ホテルニューオータニで記念式典を開催、関係者約900人が参加し、安倍首相もビデオメッセージを送ったと報じた。
障害児家族の団体が主催したコンサートからも使用料徴収
JASRAC は創立記念日の11/18日付、読売新聞にいではく会長と都倉俊一特別顧問との特別対談の見開き二面の全面広告を掲載した。盛大な記念式典の記事、そして、少なくとも1千万円超の二面全面広告を読んで思い出したのが、9月19日付、朝日新聞宮城全県版に掲載された記事だ。
「JASRACからの突然の電話 演奏会、楽曲の使用料が必要 障害児家族の団体モヤモヤ」と題する記事は、以下のリードではじまっている。
気仙沼市の障碍者の母親たちが、値域の人に理解を広げたいと、音楽家を呼んでのコンサートを7月に企画した。入場料500円、朝日新聞にお知らせ記事が載ったその日、突然電話がかかってきた。「JASRACの者です。楽曲の使用料が必要です」
以下、本文を筆者なりに要約する。
市の知的障害児や自閉症の子を持つ親たちの団体が、地域と交流するためのコンサートを企画。市のホールを借り、演奏はプロの音楽家トリオに出演料なしで依頼した。チケット代や協賛金で集めた30万円は会場費などの必要経費で消えたところへ、JASRACから使用料を請求された。
JASRACの決まりによると、公衆に演奏を聞かせる催しでは①営利目的ではなく②入場料をとらず③演奏者に報酬も支払われない場合を除き、使用料を支払わなければならない。
今回のコンサートは①③は満たすが、入場料を徴収したために②を満たさず、使用料を支払わされたわけだが、この要件は少し厳しすぎないか?会場を借りるための費用ぐらいは入場料で回収してもよいのではないか?という疑問も当然わいてくる。こうした厳しい徴収方針が功を奏してか、JASRACは2018年度に史上2番目の1156億円の使用料収入をあげた。
音楽教室からの使用料徴収をめぐっては裁判に
JASRACの厳しい使用料徴収をめぐっては訴訟も起きている。2017年2月、JASRACは音楽教室から使用料を徴収する方針を発表。現在でも練習の成果を発表するコンサートからは使用料を徴収しているが、教室での練習にも使用料を課そうとするこの方針に対し、音楽教室事業者が訴訟を提起。
主張は3点あるが、本稿に関係するのは三つ目の「使用料徴収は音楽文化の発展を妨げる」との主張。これに対してJASRACは、「著作権者にお金(使用料)を回すことこそ音楽文化を発展させる」と反論している。
7月に東京地裁で開催された証人尋問模様を紹介した拙稿「音楽教室 対 JASRAC訴訟:潜入調査の職員と会長が注目の証言」のとおり、音楽教室側の証人の一人は使用料徴収が認められたら、JASRACの管理している楽曲は使わないと証言した。
この証言によって、拙著「音楽はどこへ消えたか? 2019改正著作権法で見えたJASRACと音楽教室問題」(みらいパブリッシング)(以下、「拙著」)のQ21「著作権の保護は『過ぎたるはなお及ばざるが如し』だって本当?」で紹介した以下の実例が現実味を帯びてくる。
音楽教室からも使用料を徴収することは、利用者を音楽から遠ざける結果を招くことを具体例で説明しましょう。
(中略)
もう一つは、Q.14と15で紹介したダンス教室に関連する話です。2004年の名古屋高裁判決で少数の会員相手でも公衆に対する演奏に当たり、無許可の演奏は著作権侵害に当たるとされたため、ダンス教室は使用料を支払っています。ところが、生徒数の少ない教室などから負担を訴える声が出たため、日本ボールルームダンス連盟は著作権切れの古い曲ばかり集めたCDを用意しています。今回の裁判でもJASRACの主張が認められ、音楽教室が使用料を支払わなければならなくなった場合、同じようなことが起こるおそれは十分あります。ダンス教室に通う大人と違って、音楽教室に通う子どもの場合、今流行っている曲が弾けないようでは音楽に対する興味を失って、教室に通うのをやめかねません。
木の枝を刈り込みすぎて幹まで殺してはいけない
拙著のQ16「著作権法の目的『文化の発展に寄与する』を第三者はどう解釈している?」では、著作権法の権威である中山信弘東大名誉教授の見解も紹介した。
中山教授は音楽教室からの使用料徴収に対し、「木の枝を刈り込みすぎて幹まで殺してはいけない。音楽教室に対して必要以上に著作権者の権利を主張すれば、音楽文化が発展しなくなるかもしれない」と警鐘を鳴らす。
JASRACは「音楽の著作物の著作権を保護し、あわせて音楽の著作物の利用の円滑を図り、もって音楽文化の普及発展に寄与すること」を事業目的 に掲げている。JASRACには80周年を機にもう一度こうした原点に立ち返ることを願ってやまない。
城所 岩生 国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)客員教授。米国弁護士。