何が変わった?子供の貧困対策に関する大綱(2019年)を徹底解説!

駒崎 弘樹

2019年12月、5年ぶりに「子供の貧困対策に関する大綱」が改定されました。

子どもの貧困対策についての今後の方向性を示す非常に重要なものですが、39ページもあり、難しい単語も多いです…。

すごくサクッとした解説はこちらの記事で書きましたが、「子供子どもの貧困問題」に興味関心のある方はたくさんいるかと思いますので、この記事ではこの大綱について、より詳しく、予備知識ゼロでもポイントがわかるように、以下の4つの視点で解説をしていきます。

①「子供の貧困対策に関する大綱」とは?
②大綱には何が書かれているのか?
③5年前と何が変わったのか?
④今後の課題
(※①や②が既に分かっている人は、③から読んでください。)

【サマリざっくり言うと】
✓ 2013年に成立した「子供の貧困対策に関する大綱」の初めての見直し。
✓ 以下3点が大きな変更点

1)「支援が届かない、届きにくい子ども・家庭とつながることが重要」というメッセージが明確に出された。

2)外国籍や障害など、これまで注目されてこなかった属性が具体的に例示され、支援の必要性が明記された。

3)経済的な支援だけでなく、現物給付を含めた様々な支援を組み合わせる重要性が言及された

✓ 今後の課題
1)支援が届きにくい子ども・家庭に支援を届ける「アウトリーチ」に関する具体的な施策、適切な指標がない。

2)評価する指標はあるが、目標が設定されていない。また、数値の変化を評価するための評価基準がない。

そもそも、子どもの貧困とは

「子どもの貧困」とは「相対的貧困」の状態にある18歳未満の子どもの割合を指します。

国民を可処分所得の順に並べ、その中央値の人の半分以下しか所得がない状態を相対的貧困と呼びます。日本の場合、親子2人世帯で月額およそ14万円以下(公的給付含む)の所得しかないことになります。

こういった子どもたちは、毎日の衣食住に困るような「絶対的貧困」ではありませんが、教育や体験の機会に乏しく、地域や社会から孤立し、様々な面で不利な状況に置かれてしまう傾向にあります。

日本では7人に1人の子どもが「相対的貧困」にあるといわれています。

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そして、日本の子どもの貧困率は、1980年代から上昇傾向にあり、OECD加盟国の平均より高い水準にあります。

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①「子供の貧困対策に関する大綱」とは?

2013年に成立した「子どもの貧困対策の推進に関する法律」に基づいて、5年に1回、政府によって作成されるのが「子供の貧困対策に関する大綱」です。

一度作られた法律も、核家族の増加など社会情勢の変化に合わせた運用や修正が必要になるため、こういった大綱の見直しが行われます。

政府が作成したこの大綱に基づき、都道府県、市町村など各自治体が子どもの貧困対策に関する計画を策定します(努力義務)。

そのため、大綱は日本の子どもの貧困対策の指針や今後の方向性を示す、非常に重要なものです。

2014年に初めて作られた大綱を見直して作られたのが今回の2019年のものになります。

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②大綱には何が書かれているのか?

大綱の構成については、まず(1)目的が設定されており、それを実現するための方向性を(2)基本的な方針として示しています。

そして、その基本的方針に基づき、子どもの貧困に関する(3)指標が設定され、その指標を改善するための(4)当面の重点施策が示されており、それぞれがつながるような構成になっています。

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では、この構成ごとにそれぞれどのような内容が書かれているのか、解説していきます。

(1)目的・理念

一つ一つの計画や施策を作る前に、「どんな社会を目指すのか?どのような理念で取り組むべきなのか?」を示す必要があります。

今回の大綱ではでは以下の2つが目的・理念として掲げられています。

「将来だけでなく現在にも焦点を当てる」、「子育てや貧困を家族のみの責任にしない」といった視点が新たに追加されています。

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【参考】2014年の大綱の目的/理念

子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、また、貧困が世代を超えて連鎖することのないよう、必要な環境整備と教育の機会均等を図る。

全ての子どもたちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指し、子どもの貧困対策を総合的に推進する。

(2)基本的方針

子どもの貧困問題は、親の心理的状況や家庭の安定、経済的な困窮や子どもの学力など、複雑な問題が絡み合う大きなテーマです。

そこで現代の子育ての環境、子どもの貧困を取り巻く課題を整理し、「どのようなアプローチで、どんな種類の問題に手を打つべきか?」を明確にします。

「貧困の連鎖を断ち切る」などの4つの分野横断的な方針(共通する方針)と、「教育」「就労」など6つの分野別の方針が示されました。赤字部分が今回新たに追加された要素になります。

今回の大綱で画期的だったのは、「困っている家庭ほど声をあげられず、支援が届きにくい」、「窓口で待っていても相談につながらない」という支援の現場で起きている問題を受けて、「支援が届いていない、又は届きにくい子ども・家庭に配慮して対策を推進する」という文言が記載されたことです。

分野別の方針については、社会的孤立の防止や仕事と子育ての両立、経済的な支援に様々な方法を組み合わせる、といった視点が新たに盛り込まれました。

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(3)子供の貧困に関する指標

基本方針で示された4つの分野に関してそれぞれ指標を設定しています。
例として「対象家庭の子どもの進学率」などですが、実際に法律に基づいて対策を打った効果が出ているか?(=社会が良くなっているのか?)を測定するためです。

今回の大綱では「生活の安定に資するための支援」という分野が新たに追加され、「公共料金の未払い」や「食品や衣服を買えなかった経験」など、経済的な要素だけでなく、より生活に近い視点で貧困を評価する指標が追加されました。

その他の分野についてもそれぞれ新たな指標が追加され、合計で39個が指標として掲げられています(前回の大綱の25個から大幅に増加しています)

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【指標の改善に向けた重点施策】

大綱の中では、それぞれの指標について改善に向けた施策が記載されています。ただし、数が非常に多く、わかりにくい部分があるので、ここでは概要のみを記載しています。詳しく知りたい方はこちらを参照ください。

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③5年前と何が変わったのか?

5年ぶりに改定された今回の大綱には非常に多くの変更点がありましたが、教育、就労、生活支援など関わる範囲も広く、また内容の多岐にわたるため、何がどう変わったのかが分かりづらい部分があります。

そこで、現在ご家庭の支援をおこなっている現場の視点で、今回の改定の中で特に重要だと考えている点を3つにまとめました。

1.「支援が届かない、届きにくい子ども・家庭とつながることが重要」というメッセージが明確に出された。

「支援が届きにくい子ども・家庭がいる」ということは、支援の現場で中で長く問題とされていたにも関わらず、「そもそも行政の窓口に来ないのでどんな人なのかわからない」、「支援者とのつながりがないため実態、ニーズが把握できない」といったことが起きていたため、議題に上がりにくく、制度設計にも組み込まれない状態が続いていました(具体的にに、どのような家庭が対象になるのかこちらの記事をご覧ください)

今回大綱の中で明記されたことで、この問題に対する認知度の拡大や、解決に向けた施策の実施が進むことが期待され、非常に画期的だと言えます。

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2.これまで注目されてこなかった子ども・家庭に光が当たり、支援の必要性が明記された。

これまで、ひとり親家庭や生活困窮家庭など経済的な困窮を抱える家庭に対象が限定されがちだったのに対し、外国籍や障害のある子どもなど、生活のしづらさを抱える子どもや家庭が具体的に示され、その支援の必要性が貧困対策として明記された点が新しいといえます。

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3.経済的な支援だけでなく、現物給付を含めた様々な支援を組み合わせる重要性が言及された。

ご家庭が貧困に陥っているのは、失職や病気、障害、介護など複合的な要因の結果であるという実状を踏まえ、経済的な支援だけでなく、複合的、包括的な支援が必要であることが今回明記されたのも重要なポイントになります。

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実際、これまでの5年間の成果はどうだったのか?

また、前回の大綱で出された25の指標については、直近値(平成30年度)が出されており、その結果を整理したのが以下の図です。

「④生活保護世帯に属する子どもの中学卒業後の就職率」や「⑮スクールソーシャルワーカーの配置人数」、「⑯⑰就学援助の実施」など一部の項目については大きな変化が見られましたが、改善と呼べるほど大きな変化が見られた項目は少ないのが実状です。

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④今後の課題

今後の課題としては、以下の2点が挙げられます。

1.支援が届きにくい子ども、家庭に支援を届ける「アウトリーチ」に関する具体的な施策、適切な指標がない。

基本的方針にアウトリーチに関する記載がされたのは画期的でしたが、対策として書かれているのが「窓口機能の強化」になっており、様々な理由で窓口に行けない人に支援を届ける施策に関する記載がありません。

そのため、自治体が具体的な施策を検討するのが難しく、計画に反映されない可能性があります。

また、アンケートなどの調査に非協力的な層/情報が届いていない層/回答できない層(識字率や精神的な余裕の問題で)など、支援が届きにくい層にどうアクセスするか、そういった家庭の実状をどうやって把握するか、といった手法、指標がないことも課題だと言えます。

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2.評価する指標はあるが、目標が設定されていない。また、数値の変化を評価するための評価基準がない。

指標を改善するための施策は記載されていますが、対象の指標をいつまでに、どの程度改善するのか、という目標が設定されていません。そのため、施策が実行されると指標が一定以上改善される、という構造になっていません。

また、前回の大綱の指標についても変化が見られましたが、それが改善になっていると言えるのかがわからない、ということが起きています。

指標の数値を一般世帯と同じ値まで近づけるのか、所定の数値まで値を増減させればいいのか、何をもって貧困の改善とみなすのか、どこをゴールとするのか、具体的な基準が示されていないことも課題です。

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わたしたちが取り組んでいること~「こども宅食」でアウトリーチを実現したい~

こども宅食事業は、過去に、子ども食堂を都内で開いてみたものの、「様々な理由でここに来られない親子がいるのではないか?そういった親子の中に、より大変な家庭があるのではないか?」という問題意識のもと始まった事業です。

今回、法律の目標・理念についで最も重要な基本方針に、ようやく、この「支援が届いていない・届きにくい子どもや家庭」の問題が取り上げられました。

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こども宅食は、こうした親子に対し、食品提供という入口でつながり・関係を築き、その親子の抱える問題が重篤化しそうなサイン・変化を見つけることを目指しています。単なる食糧支援ではありません。

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ただ、「今後の課題」で取り上げた通り、政府もまだこの問題に初めてスポットライトを当てたものの、どのようにすればアウトリーチがうまくいくのか、効果的な施策や事業が分かっておらず、模索している段階と考えます。

こども宅食はそうした意味では、先行してこの問題を現場で取り組み、事業化につなげている事例です。

実際いま、文京区で始まったこども宅食事業は、全国の相談事業を行う支援の現場のプロの方々が、「これなら、なかなかいままで発見できなかった、つながれなかった親子とつながることができるかもしれない」と感じ、新たに自分の地域にあった「こども宅食」を立ち上げる動きが加速しています。

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こども宅食が事業を通じて開発しているこういったアプローチは、まさに「支援が届いていない・届きにくい子どもや家庭」に対し効果的なものと感じています。

こども宅食応援団は、全国のこども宅食事業者の皆さんと情報交換や事業の深化を続けながら、「こども宅食」が子どもの貧困対策の具体的な施策の一つとしてきちんと取り上げられ、そして、全国に広がって「つながる親子」がもっと増えるよう活動を進めていきます!

「返礼品なしのふるさと納税」で活動支援をお願いします!

「こども宅食」には該当する制度がないため補助金がつきません。

そのため、全て自己資金で運営をまかなっており、現在は「返礼品なしのふるさと納税」を財源として活動をしています。

ぜひご支援ください。

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文京区で行う「こども宅食」のモデル開発支援はこちらから。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2019年12月6日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。