弾劾すべき政治的品位の欠落
トランプ大統領は悪びれることなく、品位に欠ける言動を繰り返し、国内を分断し、同盟関係に亀裂を与え、国際機関・協定を弱体化させています。中国、ロシアと対決すると言いながら、中露をひたすら喜ばせているのです。
世界で最強の民主主義国・米国が、その政治的指導者の言動によって傷だらけになり始めています。民主主義が世界的潮流として、退潮期に入ったという指摘が識者から相次いでいます。トランプ氏は民主主義の退潮に拍車をかけています。英国は欧州共同体(EU)からの離脱に向かっており、価値観を共有してきた民主主義国が、ばらがらになろうとしています。
1年後の大統領選に向け、選挙受けを狙ったのか、トランプ氏の言動はとげとげしさ、品性の劣化が増しています。ウクライナ疑惑で下院は弾劾決議に入るようです。上院で過半数を占める与党・共和党は弾劾を拒否するでしょう。絶句するような大統領の振る舞いを誰も止められない。
民主主義は後退期に
政治学者のフランシス・フクヤマ氏は嘆きます。
「1970年以来、民主主義国は30から110に増えた」
「最近の10年間に起きているのは、民主主義のリセッション(後退)だ」
「米国を筆頭に民主主義国にポピュリズム(大衆迎合)の動きが広がった」
「中国とロシアが専制体制を敷き、民主主義の自信をくじこうとしている」
(以上、日経11/3)。
同氏はこうも指摘しています。「民主主義が大きく拡大した後、今は収縮の時代に入っている」「もしトランプ氏が再選されれば、多くの国際機関は崩壊するだろう。数年で北大西洋条約機構(NATO)はなくなるかもしれない」(読売12/7)。
民主主義と並ぶ自由貿易体制の守護神である世界貿易機関(WTO)は機能不全の危機に向かっています。米国が上級委員(定員7)の任期が切れた委員の後任を出そうとしないので、紛争処理の審理に入れないという。中国に有利な裁定があり、米国が敗訴しするなど、不利な扱いだと腹を立てている。
NATOの首脳会議の折、IS(イスラム国)戦闘員について、マクロン仏大統領に向かって、トランプ氏は「誰でも好きなのを連れて帰ったらいい」と述べ、マクロン氏から「もっと真剣になるべきだ」と、いさめられました。今の米欧関係に不満が底流にあるにしても、度が過ぎる冗談です。
議会やFRBを侮辱し平然
国内の言動でも、度を越した傍若無人の振る舞いに、多くの人が困惑している。ウクライナ疑惑に関する議会公聴会の最中、証人に立った前ウクライナ大使をツイッターで「同氏が赴任した国はどこも、ひどくなった」と、個人攻撃しました。民主主義の舞台装置である議会の公聴会に対する侮辱だし、それにしてもひどすぎる。
政治から本来は距離を置くべき聖域の連邦準備委員会(FRB、中央銀行)に対し、「根性なしで先見性がない」と、これまたツイッターでの批判です。FBRが利下げを渋っていることが気にいらないのです。圧力をかけたかったにしろ、これまでこんな発言をした大統領はこれまでおりません。
政治的品位、人間的な品位に欠ける人物を支持する地域、階層がおり、支持率は40%前後と、底固いのです。グローバル化に取り残され、米国政治、経済に不満を持つ人たちを囲い込もうとしているとの解説をよく聞きます。半ば計算づくの選挙対策、半ば、この人物固有の品格によるのでしょう。
日米関係は良好で、トランプ氏は安倍首相に暴言めいた言い方はしていません。問題は防衛費の増額要求でしょう。NATO各国にはGDP比2%(米国は3.5%)を要求しています。日本では、米軍駐留景経費の増額に関心があるようです。トランプ氏の意識は、「日本の防衛費は同1%で、少なすぎる」にあると思います。「もっと増やせ」は「米国製の兵器、装備品をもっと買え」の意味でしょう。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。