小泉進次郎大臣の発言はなぜポエムなのか

藤原 かずえ

12月11日、COP25の閣僚級会合で小泉進次郎環境大臣は日本政府を代表してスピーチを行いました。スピーチの中身については、普通に解釈すれば相変わらず内容に乏しく、逆にもっと深い解釈が必要なのではないかと思わせるものでした(笑)。このことは、小泉発言がポエムと呼ばれる一つの所以です。この記事では、論理的な観点からその発言の特徴を分析してみたいと思います。

外務省気候変動課公式ツイッターより:編集部

行為遂行的発話

小泉大臣の発言の具体的な分析をする前に、今回の分析のポイントとなる【行為遂行的発話 performative utterance】という【言語行為論 speech act theory】の概念について説明しておきたいと思います。

行為遂行的発話とは「言えば行動したことになる」発言のことです。例えば「ごめんなさい」と言えば、それは謝罪したことになり、「おめでとう」と言えば、それは祝福したことになります。また「今度、家においでください」と言えば、それは招待したことになりますし、「結婚して下さい」と言えば、それは求婚したことになります。さらには吉野家で「牛丼。ツユダク」と言えば、牛丼のツユダクを注文したことになりますし、店員が「はい。ツユダク一丁」と言えば、オーダーを了解したことになります。このように、人間は口だけで様々な行動を行っています。

会議において、行為遂行的発話は、発言者の意思を表明するものであり、要求・約束・賛同・拒否などによって構成されます。そして、会議の最終的な目標は、表明された意思を調整することによって会議参加者の統一した意思を決定することにあります。その意味で個々の行為遂行的発話は重要となりますが、それを不十分に曖昧にやってのけてしまうのが小泉進次郎環境大臣なのです。

COP25における小泉大臣発言

COP25の閣僚級会合での小泉大臣の発言のうち、個人的な思いを述べた「メッセージ」の部分は次の通りです(環境省)。

小泉大臣:

(1) 私は世界でも最年少の大臣の一人でありミレニアル世代の最年長。若者の、サステナブルへの思いに、私は共感している。そして、年長世代の気候変動への態度に怒りを感じている若者がいることもわかっている。

(2) 私は来年、子供が生まれる予定。2050年以降の未来は、私自身が生きる未来であり、来年に生まれる私の子供はもちろん、すべての子供の未来そのものである。未来への責任を果たす。

(3) この9月、NY気候行動サミットで、私は日本の学生から届けられた提言を受けて、クリーン・エア・イニシアティブへの加盟を決断した。次世代の声は政治に届く、ということを感じて欲しかった。我々には、世代を超えたインクルーシブな行動が求められている。

(4) もちろん、国際社会から、石炭政策を含め厳しい批判があることも承知している。グテーレス国連事務総長は先週「石炭中毒」をやめるよう呼びかけた。これは、日本に向けたメッセージと私は受け止めている。 COP25 までに、石炭政策については、新たな展開を生むには至らなかった。しかし、これだけは言いたい。私自身を含め、今以上の行動が必要と考える者が日本で増え続けている。

(5) こうした批判を真摯に受け止めつつも、日本は脱炭素化に向けた具体的なアクションをとり続けているし、結果も出していく。5年連続 GHG 排出削減を実現しているのは G7 で日本とイギリスのみ。9月には炭素中立性連合に参加した。こうした日本のアクションが、石炭政策への批判でかき消され、評価されない。この現状を変えたいと思ってマドリードに来た。日本は脱炭素化に完全にコミットしていないと思われているかもしれない。しかし、それは違う。我々は脱炭素化に完全にコミットしているし、必ず実現する。

以上のうち、(1)(4)は認識の表明、(3)は報告であり、国際社会から注目される意思表明にあたる行為遂行的発話は(2)(5)です。

ここで、(2)(5)について「いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)」の5W1Hを分析してみます。

まず(2)については、「なぜ=来年子どもが生まれるから」「だれが=小泉大臣が」「なにを=責任を果たすこと」は宣言されていますが、最大の論点である「どのように」が欠如しているため、ほとんど意味をなしていません。行為遂行的発話には、それを実行できる蓋然性を裏付けとして示すことが必要となるのです。「やる」と宣言すれば「必ずやる」と盲目的に信じるのは、世界に日本人だけです(笑)。

(5)については、(2)とは異なり、5年連続 GHG (温室効果ガス)排出削減を実現したという実績を根拠にして「なにを=脱炭素化を」必ず実現するとしていますが、やはり最大の論点である「どのように」が欠如しているため蓋然性の裏付けが弱くなっています。「政策の新たな展開がない」中で「脱炭素化にコミットしている」と強弁しても世界を信じさせることは困難です。

小泉大臣がむしろ世界に表明すべきだったのは、(4)に関連して、日本は再稼働に向けて原発の検査を行っていることと、日本のような孤立した島国では原発の再稼働までに電力需給の同時同量を確保するために石炭火力が不可欠であるということでした。

原発は効果的にCO2を削減できることはグレタ・トゥンベリ氏でも知っています。その一方で、再生可能エネルギーへの転換ではCO2を殆ど減らすことができないことは、ドイツが実証済みです。

高額の電気料金と引き換えにドイツは再生可能エネルギー比率30%を達成しましたが、その稼働率の低さから火力発電を十分に削減できず、CO2排出量は殆ど削減できていません。小泉大臣は、日本のような孤立した島国がCO2をドラスティックに削減するためには、原発への転換が一つの有力なオプションであることをしっかりと宣言すべきでした。

ちなみに、小泉大臣の発言に対して、『報道ステーション』の後藤謙次氏が次のように論評しています。

報ステ・後藤謙次氏:

12月11日:小泉大臣に期待されたのは、日本のエネルギー基本計画で「電力比率を俺の責任で変えるんだ」「後は俺に任せろ」という力強い方針転換宣言をこの場でやってもらいたかった。小泉氏は力強い言葉を発していたが、中身は現状維持ということで期待外れな状況だ。

12月12日:ここは政治家なので決断をすると。小泉氏は大きな魚を取り逃した。COP25で「日本は石炭火力はやめる」とダ~ンと発言しちゃえばよかった。政治は結果についてくる。

何を勘違いしているのか、後藤氏は絶望的なほど国際的常識がありません。後藤氏が勧める「根拠を示さない行為遂行的発話」くらい世界でバカにされる発言はありません。加えて、エネルギー問題に関する一般常識もありません。後藤氏は、再生可能エネルギーに転換すればCO2を効果的に削減でき問題が解決できると信じています。

さらには、民主主義に関する常識もありません。国民の奉仕者であるべき国務大臣が、自分の出世のために、電気料金に大きな影響を与える電力比率を思い付きで勝手に変えるなど、国民にとって大迷惑な行為ですし、そもそも環境大臣には電力比率を変える権限もありません。マスメディアのコメンテイターの無知と無責任さと傲慢さにはあきれるばかりです。

不完全な行為遂行的発話

小泉大臣の不完全な行為遂行的発話は今回のCOP25が最初ではありません。

小泉大臣会見(福島) 2019/09/17

記者:大熊町にとっても双葉町にとっても中間貯蔵施設に含まれる除染廃棄物の県外での2045年3月までに県外で最終処分するということは大きな復興にとっても課題だと思っていますが、その最終処分場の検討がまだ進んでいないというその現状、見通しにつきまして小泉大臣の見解をいただきたいと思います。

小泉大臣:私はこれは福島県民の皆様との約束だと思っています。その約束は守るためにあるものです。全力を尽くします。

記者:具体的に何かこう今しようと思っているのかどうか。

小泉大臣:私の中で30年後を考えた時に、30年後の自分は何歳かなと。あの発災直後から考えていました。だからこそ私は健康でいられれば、その30年後の約束を守れるかどうかという、そこの節目を私は見届けることができる可能性のある政治家だと思います。だからこそ果たせる責任もあると思うので、その思いがなければ双葉未来学園の取り組みも、私は取り組んでいません。

教育というのは一過性の支援ではいきません。生徒たちの社会に羽ばたいた後の人生も含めて責任を負うんだと。そういったことも含めての思いがあるからこそ取り組んできました。この30年の約束も私はその思いでライフワークだと言ってきたことをしっかり形にするために全力を尽くしたいと思います。

約束は行為遂行的発話の一つです。そして「約束を守るために全力を尽くします」という約束も行為遂行的発話です。ただ、記者から「具体的に何か今しようと思っているか」と聞かれた小泉大臣が回答したのは、5W1Hうち、「いつ=30年後まで」「だれが=自分もしくは誰かが」「なぜ=思いがあるから」だけであり、論点である「どこで」「何を」「どのように」が欠如していました。まるでギャグのような【論点逃避 evasion】です(笑)

国連・環境関連会議 2019/09/22

記者:Coal is a major source of electricity in Japan. Coal is a major source of global warming. What will your ministry be doing in the next 6 to 12 months to transition away from coal?
(日本において石炭火力は主電源の一つです。石炭は地球温暖化の主たる発生源でもあります。これから半年から1年で脱石炭発電について環境省では何をするつもりですか?)

小泉大臣:Reduce it.(石炭を削減する。)

記者:How?(どのようにして?)

小泉大臣:I just became a minister last week, and I’m discussing with my colleagues and staff from ministry, and we have said as a goverment, not just as the ministry of emvironment, that we are going to reduce it.
(私は先週大臣になったばかりで、現在は省内で議論中です。削減すると言っているのは省としての見解で大臣としての見解ではない。)

これも勇ましく行為遂行的発話を行ったものの「どのようにして」と聴かれると言葉に詰まり、組織としての環境省に責任を押し付けました。繰り返しになりますが、行為遂行的発話に必要なのは、裏付けとしてそれを実行できる蓋然性であり、発言の根拠がない場合には、大風呂敷を広げたホラ吹きと認定されます(笑)

次の首相?

世論調査などで、しばしば「次の首相」と呼ばれる小泉大臣ですが、よく言われるように、今の小泉大臣には人気はあるもののこれといった哲学は見当たりません。もしも総理大臣を目指すのであれば、安倍総理大臣の「美しい日本」のように哲学を示して国民に提示するべきです。もちろん、それを受け入れるか否かは国民の判断です。

2001年の自民党総裁選で小泉純一郎氏は「自民党をぶっ壊す」という行為遂行的発話をスローガンに自民党総裁に選出されました。これは自民党総裁になれば、それなりの権限が付与されることから蓋然性を伴った行為遂行的発話であったと言えます。総理大臣として発言した「聖域なき構造改革」というスローガンも蓋然性を伴った行為遂行的発話であり、郵政・道路公団の民営化を実現しました。実行可能な蓋然性が得られていない行為遂行的発話を続ける今の小泉大臣とは明確に異なります。

小泉大臣:

今のままではいけないと思います。だからこそ、日本は今のままではいけないと思っている。

小泉大臣のこの有名な【同語反復 tautology】の発言に関して、好意的に解釈すれば、前段は認識の表明であり、後段は「日本を変える」という決意の表明が隠された疑似的な行為遂行的発話であると解釈できます。もしそうであれば、発言の「日本」という部分を「小泉大臣」に読み代えて、自分が置かれている状況を深く認識する必要があると考える次第です。もう一度言いますが、行為遂行的発話には蓋然性を伴う必要があります。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2019年12月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。