保守党が歴史的な大勝を収めたイギリスの総選挙。八幡和郎さんのように、英国民の間で踏ん切りをつけたかった弾みの結果という見方は否定しない。ただ、有権者ニーズにいかにマッチングしていくかという選挙マーケティング側面で振り返れば、「EU離脱」という大アジェンダに対して、あいまいな態度に終始した労働党のコービン党首は、惨敗して当然の成り行きだったと言わざるを得ない。
選挙戦から日が経つにつれ、出口調査の興味深い分析も出てきた。日経電子版が昨夕、報じたこちらだ。
英保守党、労働党支持層の「離脱票」奪取で大勝(日本経済新聞)
有料記事なので調査分析の詳細をつまびらかにするのは控るが、リードにある主旨はこういうことだ。
投票や出口調査などのデータを読み解くと、最大の争点だった欧州連合(EU)からの離脱をめぐり、最大野党・労働党の支持層の離脱派を大量に切り崩した構図が浮かびあがる。離脱に関し玉虫色の姿勢に終始した労働党は残留派の支持者の一部にも見放され、保守党を利する結果になった。
記事本編では、2016年のブレクジットの是非をかけた国民投票の際に離脱派が多数派だった地域を、いかに保守党がものにしていったか、データをもとに紹介している。
そして、もう一つ選挙の趨勢を決めた点で記事を書いた日経の篠崎健太記者は末筆で「急進的な左派政策が嫌われた」とも書いている。これについてはアゴラでも岩田温さんが指摘していたが、篠崎記者は、裏付けとなる世論調査(デルタポール)にも言及していたので、その内容もみてみた。
設問はずばり
Do you think Britain leaving the EU with Boris Johnson’s deal or a government led by Jeremy Corbyn would be worse?
(新田意訳:ジョンソン首相主導でEUを離れるのと、コービン政権が誕生するのと、どちらのほうがイギリスが悪化すると思いますか?)
調査は総選挙実施が決まる直前の10月21日から、投票5日前の12月7日まで計7回実施。推移のグラフは以下のとおり。折れ線の色は緑が「コービン政権のほうが悪化」、青が「ジョンソンによるEU離脱のほうが悪化」、グレーが「わからない」となっているが、多少の変動はあるものの、「コービン政権のほうが悪化」との回答が終始最多だった。
しかも、日経記事によれば、終盤の調査では、労働党支持者からも4分の1が「コービン政権のほうが悪化」と答えていたようだから、保守党に切り崩されやすい状況になっていたことがここでもうかがえる。
主義主張の先鋭化は、一定の支持層獲得には有効でも、政権獲得という多数派形成にまで広がるかといえば、ハードルがあることはどこの国でも同じだ。
橋下徹氏は、反対ばかりの抵抗戦術には限界があるという主旨で、日本の野党にもこの選挙結果を学ぶべきとツイートしていたが、
英総選挙、ジョンソン首相が勝利宣言 EU離脱の達成を約束
➡︎自らの政治意思を貫くために戦うジョンソン首相の姿に支持が集まった。先日の大阪府知事・市長のダブルクロス戦と同じ。相手に文句を言うだけの戦いには支持は集まらない。野党は勉強すべき。 https://t.co/Wz28gFhKkP— 橋下徹 (@hashimoto_lo) December 13, 2019
急進的な左傾があるとの印象を有権者に持たれている限りは、政権担当能力があるとはみなされない可能性について、旧民主系の野党はあらためて肝に銘じるべきだろう
……と書いたところで、ネットで流れている野党のニュースはこれだった。なんですかこれは。
立憲民主党の枝野幸男代表と共産党の志位和夫委員長が15日、東京都内のホテルで会談し、安倍晋三首相主催の「桜を見る会」の追及や次期衆院選に向けた連携・協力を深めることで一致した。
案の定、「易き」に流れるようだ。実際、ここまでの「桜」戦略で野党が不発なことは数字で明らかなのに。NHKの最新世論調査(12月発表)で、自民党の支持率はわずか0.7ポイントの微減でしかなく、立憲民主党に至っては微増どころか、6.3→5.5%のダウン。ほとんどの党で支持率を減らす「政治全体への不信感」になっているという極めて深刻な現状なのだ。
一部の左派層狙いしか眼中にない野党第一党にも、スキャンダルの火消しに追われて、やるべき改革から逃げている安倍政権にも、困ったものだが、実はいま自民党支持層、ことに安倍政権を根強く支えてきた保守層の間でもじわじわと態度変容が起きつつある。
そこの潮目の変化は後日、アゴラの記事かVlogで取り上げたいと思うが、「センターライン」のさらなる空洞化を感じさせるものがある。枝野代表や共闘路線の裏で暗躍する小沢一郎氏などはそこに気付いてるのだろうか?
英国の総選挙は、そこに至るまでの過程はEU離脱を巡る政治全体の迷走があって、まさに八幡さんが言うような「弾み」が生まれる余地が膨らんでいた。
いまの日本も政治的に閉塞した状況なのは似ているが、カタルシス効果をもたらす勢力が出てくると、思わぬ展開もないとは言えまい。しかし、季節外れの桜に目が眩む野党の近視眼ぶりにつける目薬はなさそうだ。
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新田 哲史 アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」