ますます変質していく韓国:日本は長期視点で距離感調節を

松川 るい

日中韓首脳会談が成都で開催。昨日(12月24日)、15か月ぶりとなる日韓首脳会談が行われた。

久々に実現した日韓首脳会談(韓国大統領府Facebookより:編集部引用)

安倍総理は日韓関係悪化の根本原因である旧朝鮮半島出身労働者判決問題について国際法違反の状態を是正するよう韓国政府に求め、韓国政府が解決のきっかけを作るように求めた。その上、現金化されてはならないことも申し入れた。これに対し、文在寅大統領は問題の深刻さは認識しているが、行政府としては司法判断を尊重する必要があると述べた由。

文喜相国会議長が国会に基金案を提出するなど韓国国内での動きはあるようだが、韓国政府側から具体的解決策の案について提起されることはなかった。要するに、お互いの原則的立場を述べあって平行線で終わったということである。

もともと期待値が低かったので予想通りの会談ではあった。これまでのとげとげしい雰囲気から、今後とも対話を通じて問題を解決していくことで合意したこと自体は良かったと思う。少なくとも、字義通り受け取れば、文在寅大統領自身が、旧朝鮮半島出身労働者判決問題の重要性について認識したことは第一歩となるかもしれない(とはいえあまり期待できないが…)。

また、雰囲気改善だけであっても、たとえば今回も日韓首脳会談が行われなかったとした場合に比べれば、緊迫する北朝鮮情勢やGSOMIA破棄騒ぎで痛んだ米韓関係を考えたときに、北朝鮮情勢が緊迫する中で日韓がさらなる関係悪化に向かっているという印象や日米韓安保協力の綻びを広げなかったという意味で評価されるべきだろう。

が、結局、韓国政府からは解決策の提案の言及すらなかった上に韓国政府として何としても本件問題を解決するという意思が感じられなかったことは残念だ。このまま具体策なく現金化が進めば、日韓関係はさらに悪化する。その悪化のプロセスを何としても止めるという意思は今一つ感じられなかった。もともと、韓国の国内裁判所が火をつけた問題である。

最高裁勝訴に沸く元徴用工の原告側(KBSより:編集部)

また、その韓国司法について「司法判断を尊重する」姿勢では、日韓関係の破綻を甘受すると言っているようにしか思えない。韓国の司法といえば、日韓合意が憲法違反かどうかを司法判断することも決まっている。ここで違反との判断が下れば日韓合意を韓国政府が破棄することになるだろう。たった数人による司法判断が日韓関係をさらなる崖下に落とすタイマーがセットされている。旭日旗について韓国政府自身が「憎悪の象徴でオリパラで使用されるべきではない」との発信を行ったことも韓国が日韓関係改善を真剣には考えていないとしか思えない。

日韓首脳会談だけでなく、ウイグルや香港について中国の内政問題と認識を示すなど中国への配慮過多な中韓首脳会談を見るに、韓国が今後どういう国になっていくか、もっと有体にいえば、韓国は、日米韓の枠組みを重視するのか中国チーム入りするのか、どちらの陣営に属する国になっていくのか、暗澹たる気持ちになっている。前のブログにも書いたが、所詮、朝鮮半島は(中国が強いときは)中国に引きずられる運命にある場所だ。そうならないのは米国の関与があればこそだ。

日本ができることは、もしかしたら、時間稼ぎだけなのかもしれない。しかし、現下の東アジア情勢を見るに、時間稼ぎであっても韓国を日米韓に引き留める努力はすべきだ。とはいえ、韓国が大陸回帰する可能性も念頭において対処すべきでもある。要するに両方やるべきなのだ。韓国は当てにならない。特に安全保障では。

けれど、日本を言い訳にして韓国が日米韓を離脱するきっかけを与えるのは避けるべきだ。南北統一にしか関心のない文在寅大統領や周辺は別にして、左傾化して中国に飲み込まれることを良しとしない韓国人もいる。

文喜相議長(Wikipedia)

文議長案は、日韓企業の寄付と韓国政府の拠出による基金を作るという案のようだ。この案のフォーミュラ自体は、もしも、①日本企業の「寄付」が真に自主的なものなら、つまり、日本企業の寄付がゼロでもいいなら、そして、②金額が足りない場合には、韓国政府が全部拠出する用意があるとか、請求をあきらめさせるなど、最終責任は韓国政府が負うことにコミットしているなら、日本としても検討可能な案だと思う。つまり、日本企業に対して強制的な被害が及ばないことを確保しているのであれば、国際法の観点からはありうる案だというこだ。

しかし、今、韓国国内では、日本企業が寄付しないのであればダメとか謝罪がなければダメという意見が強い。それでは日本は検討さえ不可だ。そして、このような韓国国内の反応が強いのであれば、4月に国会選挙を控える中で文在寅政権が本案を正式提案にする可能性は低くなっているだろう。いずれにせよ、韓国政府が本案含めなんらの具体的解決策につて取り組むよう求める以外に日本にできることはない。

そもそも、日本からすれば、日韓請求権協定締結時において5億ドル、そして日本の在外資産22億ドル(1945年当時換算)を韓国に渡している。要するに韓国の65年当時の国家予算3.1憶ドルの約10倍の資産を韓国に引き渡してすべての個人請求権を含めた決着をしたのが事実である。

特に、「徴用工」については個別補償を日本側が申し出たにも関わらず、韓国政府が個人補償については韓国政府が対応するので個人保証分もまとめて一括して受け取ることを要求し、その結果一括して韓国政府に対して支払うこととなった経緯がある。だから、今更もいいところ、なのだ。

本件問題は、韓国司法が引き起こした問題だ。韓国国内で処理するのが当然だ。日本はこの原則は曲げてはいけない。日本人と朝鮮人で徴用についての差別もなかった。また、第二の慰安婦問題になりそうな雰囲気だからこそ、二度と同じ間違いをしてはいけない。韓国は反日教育のせいで、韓国バージョンの歴史を再生産し続ける構造が出来上がっている。日本の歴史教育は空白だ。このままでは時間がたてばたつほど韓国バージョンが事実に関わりなく「歴史」として喧伝されていくことになる。

関係が悪化したついでにとは言わないが、この際、はっきり事実について日本の中でも教育をするべきだと思うし、対外発信も強化するべきだ。文在寅政権に多くは期待できないし、次の政権も文在寅政権よりましとも限らない。

写真AC(編集部)

韓国は永遠に地理的な隣国である。仲良くなくても良いが、敵対的で不安定な関係であっては日本の負担が大きい。なので、安定的な関係を作るべきだ。他方で、今、韓国自身が大きく変質しつつある。社会の主流派が保守から親北左派に変えられつつある。イデオロギーに凝り固まった勢力が社会の中心となりつつある(だからこそ、それに違和感を持つ「全うな」韓国人の抵抗もある)。

北朝鮮は韓国にとっての脅威でなくなりつつある。核兵器をもってミサイルを連発する北朝鮮だが、文在寅政権下の韓国は南北融和すればすべてが解決すると思っている。だから、日本は、無理なものは無理であり妥協すべきでないことについて韓国だからといって妥協してはならない(下手な妥協をした結果が現在の日韓関係だ)。韓国に対しては原則を絶対に曲げるべきではない。当面日韓関係は厳しいと思う。結構な期間にわたりそうかもしれない。

しかし、韓国が永遠に文在寅的世界にいると決めつける必要もない。だから、下手な妥協は長期的には良い結果を生まない。日本は、韓国については長期的視点から考え、当面、日本はそのような変質しつつある韓国の現実を踏まえて、距離感を調節していく必要がある。

松川 るい   参議院議員(自由民主党  大阪選挙区)
1971年生まれ。東京大学法学部卒業後、外務省入省。条約局法規課、アジア大洋州局地域政策課、軍縮代表部(スイス)一等書記官、国際情報統括官(インテリジェンス部門)組織首席事務官、日中韓協力事務局事務局次長(大韓民国)、総合外交政策局女性参画推進室長を歴任。2016年に外務省を退職し、同年の参議院議員選挙で初当選。公式サイトツイッター「@Matsukawa_Rui


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏(自由民主党、大阪選挙区)の公式ブログ 2019年12月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。