新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
今年は東京でオリンピック・パラリンピックが開催される。多くの障害者が東京を訪れると予測され、それへの準備も進んでいる。鉄道駅でのホームドアの設置もその一つで、1日に10万人以上が利用する主要駅への設置が進められている。東京都は競技会場周辺駅への設置に補助金を出している。
競技会場を含む公共建築や鉄道・バスなどの公共交通では障害者対応が進んでいる。これは、同様に問題を抱える高齢者にも役立つものだ。これに対して、情報分野では歩みは遅い。
たとえば、JR東日本のウェブサイト。トップページの一番上で回転する七枚の画像が停止できない。これは、ウェブアクセシビリティに関する最低限の基準(レベルA)違反である。使い勝手(ユーザビリティ)も悪い。日本語サイトでも英語サイトでも路線名を知らないと空席が検索できない。那須塩原駅や安中榛名駅が何新幹線にあるか、まずはクイズを解かせようというのは不親切すぎる。
なぜ、情報分野は遅れているのだろうか。
政治的なけん引力が弱いというのが理由の一つ。公共建築に対応を求めるハードビル法の制定は1994年。交通バリアフリー法の施行は2000年。この辺りの経緯は盛山正仁衆議院議員の著書「バリアフリーからユニバーサル社会へ」(2011年、三省堂書店)に詳しい。これに対して、情報分野では情報バリアフリー法など検討の俎上にもない。
第二の理由は想像がむずかしいこと。駅に階段しかなければ車いす利用者は苦労するだろうと想像するのは容易。それでは、ウェブサイトの回転画像が停止できないと誰が困るのだろうか。
障害者が抱える問題について考える前に、まずは3500万人を超える高齢者の問題を知ることをお勧めする。参考書として「高齢者のためのユーザインタフェースデザイン:ユニバーサルデザインを目指して」(2019年、近代科学社)を手にとってはどうだろうか。
視覚、運動コントロール、聴覚と発話、認知、知識、検索、態度に関わる問題とそれへの対応策を、この本は説明する。スバルの車載ナビは若いエンジニアによって設計され、高齢の購入者の不評を買っていた。そこで、高齢者の助けを借りて改善に乗り出したなど、巻末に掲載されているケーススタディも興味深い。問題解決の鍵は「高齢者との共同調査」である。
両書に共通するのは「ユニバーサル」という言葉。高齢者・障害者・外国人などと分けるのではなく、できる限り多くの人に役立つように対応を進めようという考え方が「ユニバーサル」。「共生社会」と言い換えてもよい。
パラリンピックが開催される今年こそ、情報アクセシビリティ対応を進めようではないか。
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山田 肇 情報通信政策フォーラム(ICPF)理事長/東洋大学名誉教授