小池知事に公明党からの“お年玉”で都知事選“終戦”

新田 哲史

カルロス・ゴーン被告の国外逃亡に揺れる年明け、令和2年1月2日の昨日をもって7月5日投開票予定の東京都知事選は早くも終戦したようだ。公明党の山口代表の街頭演説を巡って、報道各社によって切り取り部分が異なり、私が最初に見たのは解散総選挙の見通しを示した他社の記事だったが、時事通信は都知事選の趨勢を決めるものとしてこちらを柱に据えた(太字は筆者)。

山口公明代表、小池氏再選支持を示唆 「都政の継続性」強調(時事通信)

公明党の山口那津男代表は2日、東京都内で街頭演説し、7月の東京都知事選について、「都政がこれからも継続性を持って、都民第一で進んでいくように、これからの東京をつかさどっていかなければならない」と述べ、小池百合子知事の再選が望ましいとの考えを示唆した。

これをどう解釈するか。部外者の私の言葉の前に元都民ファーストの会所属で、衆議院東京9区からの再起を目指して浪人中の高松智之さんのコメントを持ってこよう。

というわけで、都知事選では都民ファーストの会と公明党が連合軍を組むことが実質決まったわけだ。

前回の都知事選以降、小池氏と公明党の関係はツンデレ状態。おさらいすると、公明党は4年前の都知事選では自民党と組んで、増田寛也氏(このほど日本郵政新社長に就任)を推薦。小池氏に敗れた後、翌年の都議選に際して自民党とたもとを分かち、都民ファースト(都ファ)との連立を組むことにシフトした。

公明党は幕末に幕府方から長州藩との同盟に乗り換えた薩摩藩を思わせる身のこなしだったが、小池陣営との蜜月は長くは続かず。その年、秋の衆院選で小池知事が希望の党を率いて政権交代をめざしたものだから、公明は一度連立関係を解消した。それ以降は是々非々のスタンスでやってきて、都知事選に際しての支持動向が注目されていた。

官邸サイト、公明党サイトより

言わずもがな、小池ブームも終わって久しく、小池氏、都ファにとって無党派頼みでは不安が大きい。野党から労組票、自民党から業界団体票を切り崩そうとしてきたが、まだ関係は風向き次第だ。いまもなお女性を中心に半数近い支持率を得ているとはいえ、再選を確実なものにして圧勝するには創価学会などの組織票70万票は喉から手が出るほど欲しい状況だった。

小池氏はこれまで公明党との対立には気を遣いまくり、私立高無償化政策などで要求を丸呑み。昨年末も、公明党は小池知事に私立高校授業料の実質無償化の対象世帯を年収約760万円未満から約910万円未満に引き上げるように申し入れており(公明党ニュース)、これも小池知事は受け入れる方針だ。

きのうの山口代表の発言は、そうしたご機嫌取りの成果を踏まえた「お年玉」だろう。自民党本部でも、保守党時代からの盟友、二階幹事長が小池氏再選に向けて主導しており、二階氏、山口氏からもダブルでお年玉をもらったようなものだ。再選に近づいたムード演出で、風見鶏状態の団体組織票にも影響は小さくあるまい。小池知事は気前のいい複数の親戚から連続してお年玉をもらった小学生のように内心ほくそ笑んでいるに違いない。

政府インターネットテレビより

そして一般読者でもわかることだが、これで進退極まったのが、小池氏と犬猿の仲の菅官房長官と自民党都連だ。

昨年来、独自候補擁立にこだわり、著名人も含めてスカウティング活動を水面下でやっていると噂に聞くが、女性の現職知事は歴代負けたケースはなく、JX通信社の昨年10月の都民世論調査でも、女性を中心に手堅い支持率が維持されている。

菅氏や都連が頼みとしたい安倍首相も昨年来、「小池さんでいいんじゃないか」と投げやり気味という話が報じられ、安倍首相が介入したくなっても臨時国会以後は、桜を見る会などの政局対応に追われ東京都政どころではないのが現況だ。

私個人は小池知事には早く辞めてもらいたいと思っているので、不愉快極まりないが、公明党が態度をはっきりさせたことで都知事選の情勢は9割方固まったといえよう。

小池氏が敗れる「異変」があるとすれば、自民都連が最低でも100万票程度は健闘できる候補者が出た上で、左派野党連合軍が擁立する山本太郎氏に漁夫の利をさらわれるシナリオだが、オリンピック直前に信任投票の色合いが濃い中で、極端な主張をする山本氏らに都民が五輪ホストの役回りを任せる気になるかといえば、ならないと考えざるを得ない。(ただし予備調査の数字は未見です)

本稿を読んだ都ファの執行部や小池派のネット民は「アゴラの新田はまだ諦めてなかったのかよ、バーカ」と嘲笑するだろうし、早川忠孝さんの水戸黄門ばりの高笑いが聞こえてきそうだ。

しかし、実は私は白旗を挙げたわけではない。「都知事選での小池氏再選イコール小池都政・都ファの黄金期」ではないことだけは断言しておく。詳しくはまだ書かないが、都政の政局本番は「その先」だ。小池知事の短期間の延命がひとまずほぼ決まった程度でしかない。そういうわけで小池百合子さん、再選おめでとうございました(棒)。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」