スペインがカバの輸出で伊仏に対する競争力を失いそうな理由

フランスのシャンパンに対してスペインにはカバがある

フランスのシャンパンと同類にスペインにカバがある。製法は同じであるが、特に使用するブドウ品種に違いがある。マカベオ(Macabeo)、シャレロ(Xarello)、パレリャダ(Parellada)がカバで主に使用されるブドウ品種だ。

スペインのカバ(スパークリングワイン)、Wikipediaより

カタルーニャのペネデス地方の都市サン・サドゥルニ・デ・ノーヤでシャンパンの製法を使用して1872年に生産されたのがカバの最初だ。カバという名前の由来は、それが洞窟で熟成されたことからカタラン語で洞窟のことを「コヴァ」という。それが発音し易いように語尾変化して「カバ」という商品名となったもの。

余談になるが、それがスペイン語圏で始まっていればカバではなく、同じく洞窟という意味の「クエバ」と呼ばれるようになっていたかもしれない。 

カバはカタルーニャだけで生産されているのではない

この歴史的な過程が影響してカバの産地はカタルーニャとなっていた。その後、スペインの主要各地でも生産されるようになり、1966年に農業省は10県の主要自治体にカバとしての呼称と認定した。

その内訳を見ると、カタルーニャの4県ではバルセロナ63の自治体、タラゴナ52、リェイダ12、ジロナ5ということになった。カタルーニャ以外の県ではラ・リオハ18、アラバ3、サラゴザ2、ナバッラ2、バレンシア1、バダホス1となった。

ところが、その後カタルーニャ以外の地方でカバの生産が発展したのはバレンシア県レケナ市とエクステマドゥラ州バダホス県アルメンドゥラレホ市の二つの都市であった。

この二つの都市のカバがカタルーニャのカバを脅威にさらすほど急成長したのである。それは良質で、安価な価格で、酸度が少なく飲み易いという3つの特徴からであった。
(参照:cavadeextremadura.com

それを脅威に感じていたカタルーニャのカバの生産業者がこの二つの都市で生産されるカバの成長を抑えようとして政治的に活動を開始した。

それが昨年2019年に具体的となった。昨年までは、カバ用のブドウ品種の作付面積は農林水産省が指定していた。ところが、昨年9月に2020年度からの作付面積はカタルーニャの原産地呼称認定協会に委ねるという決定を政府が昨年末の12月に下したのである。

この決定が下されるまでカタルーニャの原産地呼称認定協会はスペイン政府に圧力をかけて来た。何しろ、カタルーニャにはカバの大手生産業者がひしめいており、バレンシアとエクステマドゥラの2州がその圧力に抗争しようとしても象とネズミのような戦いでしかない。また、現在のペドロ・サンチェス首相の政権はカタルーニャの独立運動を和らげる必要にも迫られている。

ということで、ルイス・プラナス農相はバレンシア出身であるが、カタルーニャからの圧力の前にスペイン政府は屈したのである。

カタルーニャ原産地呼称認定協会のメンバーにはカタルーニャ以外のカバを生産している自治州からも加わっている。しかし、9割近いカバの生産業者がカタルーニャにいることから、カタルーニャのカバ生産業者の意向が大きく反映されることになるのは当然であった。

カタルーニャ以外の地方でのカバの生産を抑えようとしている動きがある

その結果、昨年2019年12月30日の『El País』は見出しに「カタルーニャはエクステマドゥラとバレンシアのカバをブロックした』という内容で、2020年度の新たな作付面積として僅か0.1ヘクタールしか認めないという決定をカタルーニャの原産地呼称認定協会が下したことを報じたのである。

これが意味するものは、標的にされているこの2州は実質2020年の作付面積の拡大は認められないということ、つまり今後この2州でのカバの生産の増産はできないということなのである。(参照:elpais.com

筆者が懇意にしているエクステマドゥラでカバを販売している1870年創業のワイナリーに尋ねたところ、「この決定は実質的には2020年だけではなく2023年まで作付面積の拡大はできないということだ」と今回の決定に憤慨しているカロリナ・ルイス・トッレス4代目社長が語った。

ということは、ぶどうが成長して実をなして原材料として使用できるようになるには2025年まで待たねばならず、非常に大きな損失を生むことになるとしている。特に、カバ用のブドウを栽培している農家にとっては収入面で打撃は大きいとされている。

一般のワイン用のブドウは栽培しても価格面で採算が取れ難くなっており、現在需要の高いカバ用のブドウ品種の栽培だと採算も取れるということでカバ用のぶどう栽培に切り替えている農家多くある。それが今後2023年までできないということになる。

カバは生産過剰にあるというのがカタルーニャの生産業者の説明だが

今回の決定を下したカタルーニャの原産地呼称認定協会は、その理由として生産過剰になって価格が暴落するのを防ぐのが主な理由だとしている。それに対して、エクステマドゥラ農業連合のフアン・メティディエリ会長は「カタラン産以外のカバの販売が伸びていることからカタルーニャはそれを阻止しよとしている」と反論している。

それに対して、カタルーニャのカバ生産業者ヴィア・デ・プラタのエヴァリスト・ベガ社長は「昨年は(スペインで)3億本のカバが生産されたが、6000万本は売れなかった」「外国市場はイタリアのプロセッコの登場で販売が容易ではなくなっている」、だから「作付面積を増やすのは理想的はない」と判断したそうだ。

この判断に対しても、メティディエリ会長は「イタリアやフランスは今が拡張の機会だと見て生産量を増やしている。それは我々が競争力を失うことを意味するものだ」と反論している。尚、2030年には欧州連合はこの分野でも解禁となって作付面積の拡大に制限はなくなる。しかし、それまでこの10年間の方針が将来の発展のカギを握っているのも確かである。(参照:hoy.eshoy.es

カタルーニャのカバの作付面積は全体の9割

カバ用のブドウ品種の作付面積は3万8000ヘクタールあり、その内の3万ヘクタールがカタルーニャで栽培されている。また、レケナが4000ヘクタール、アルメンドゥラレホが1400ヘクタールとなっている。残りの僅かを他4県で分担している。アルメンドゥラレホの場合は2015年は420ヘクタールであったのが、2年後の2017年には1367ヘクタールと急増し、現在正確には1426ヘクタールとなっている。

昨年まではスペイン農林水産省が作付面積の決定をしていた関係から2018年は272ヘクタールが新たに加えられ、昨年は300ヘクタールが改植の対象となった。
(参照:elpais.com

カバ用のブドウ品種を生産している農家は全国で6800軒あり、カバの生産そのものに従事している業者は138社。そこからカバを仕入れてカバの呼称認定を受けて自社ブランドで販売しているワイン生産業者は374社ある。(参照:hoy.es 

スペインが輸出する面での弱み

現在国内での需要の伸展は先ず難しい。輸出の発展を図るしかない。しかし、スペインの弱みはカバ以外の商品でも全国レベルで協力して輸出に一致団結して取り組む姿勢に欠けるということである。常に国内で同じ業者同士が対立するというのが常である。それがイタリアやフランスとは異なる点である。

そして、もう一つ加えるならスペインという国のイメージが外国ではイタリアやフランスに比べ弱いということもある。これも仕方ないことで、スペインが本格的に輸出に取り組み始めたのが民主化以後の1978年頃からである。イタリアやフランスと比べその意味でも半世紀は遅れを取っているのである。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家