11日朝9時(現地時間、日本時間8時)から始まった台湾の総統選挙と立法院議員選挙の投票は、夕方5時(同、日本時間18時)に締め切られ、さっそく開票が始められた。
日本時間の22時過ぎの開票状況は、民進党現職の蔡英文候補の得票が800百万票を超え、540百万票余りの国民党の韓国瑜候補を抑えて、事前の世論調査通りほぼ勝利を決めた。 同時に行われた定数113議席の立法委員選は、世論調査では最大野党国民党が有利となっていたが、これも民進党が79議席の47議席を占めているので最終的に過半数を制する勢いだ。
総統選の地区別では、韓候補が制しそうなのは台東、花蓮、苗栗、竹縣、金門など一部に限られ、台北、新北、台中、高雄などの大都市は軒並み蔡候補が勝利の模様。中でも韓候補が現職市長を務める高雄市は、100万票を超えた蔡候補に対し、韓候補は60万票に満たずほぼダブルスコアの惨敗となりそうだ。
一昨年11月の統一選挙で惨敗した蔡英文率いる民進党だが、昨年1月の習近平主席の一国二制度演説に蔡総統が即刻反発した辺りから盛り返し始め、5月の党内選挙での蔡英文勝利(頼清徳氏は副総統候補に)を経て、6月からは香港抗議デモが大規模化し、中国と距離を置く民進党への追い風となった。
国民党はといえば、鴻海の元会長郭台銘氏の担ぎ出しに失敗、高雄市長に就任して一年も経たない韓氏を候補にせざるを得ず、一方その高雄市民は、市政そっちのけで全島を飛び回る韓市長に愛想をつかし、リコールの署名集めまで始める始末だったことが、高雄のこの得票差に表れた格好だ。
中国は親中派マスコミを使ってのプロパガンダや個人旅行の禁止に加え、恒例の大陸在住の台湾人の帰島奨励などを進め、韓候補も「中国と協調して金持ちになろう」と訴えた。が、香港騒動やウイグル内部文書流出などで高まった台湾人の一国二制度への警戒心を払拭することができなかった。
台湾は失職制度がないので、韓候補は総統選に負けても高雄市長に戻れる。が、蔡候補に100万以上の票が出たことから、57万人余りの署名で実現するといわれる高雄市民によるリコールが現実となる可能性も出てきた。今後はこちらも注目だ。
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。