香川県議会が子供たちのスマホ使用を制限する条例を制定しようとしている(参照:朝日新聞)。
蒸気を動力とする蒸気自動車が利用され始めたのは1830年前後である。しかし乗合馬車事業者の反発や市街地での騒音・ばい煙などが重なり、英国議会は1865年に『赤旗法(Red Flag Act)』を成立させた。市街地2マイル・郊外4マイル/時を最高速度とし、日中は赤旗・夜間は赤ランタンを持つ先導員が蒸気自動車の前方60ヤードを歩くように義務付けた。
赤旗法は研究者の意欲を削ぎ、自動車開発の主導権は英国から米国に移っていった。同法の廃止には1896年までかかったが、すでに遅し。自動車産業を大変革したT型フォードは1908年に発売され、それ以降、英国に主導権が戻ることはなかった。
香川県の条例案は、18歳未満の子どものスマホやパソコン、ゲーム機の使用を平日60分、休日90分までに制限し、中学生以下は午後9時まで、高校生は午後10時までに使用をやめさせると規定する。
この条例に実効性を持たせるために、本家赤旗法と同様に、県議会議員が各家庭を回り制限を超えて使用している子どもたちの前で赤旗を振ったらどうか。
自動車が普及した要因の一つは教育である。自動車交通が社会にもたらす利益は小学校の社会科で学習する。一方、保育園・幼稚園や小学校では交通安全教室が実施され、運転免許を取得する際にも交通規制について学ぶ。こうして、自動車の利益と危害を人々は理解しているので、自動車は社会で広く利用されているし、自動車がなければ現代社会は成立しない。
同様に、スマホの価値を学校で教える必要がある。スマホは世界につながる「どこでもドア」で、多様な情報を取得し発信できる。国籍や人種を超えて多くの人々とコミュニケーションするのにも利用できる。一方で、見ず知らずの人に誘い出されれば命の危険が襲うし、悪口を流せば友人の心に傷がつく。通常の生活リズムが大きく乱れる、依存症が発症する恐れもある。
スマホなしでは現代社会は成立しない。だから、子どもたちに教えなければならないのは、スマホの利益と危害である。スマホに対する恐怖心が先行して利用規制をしようというのは、赤旗法の教訓に学ばない愚かな政治である。
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事情は人工知能(AI)も同様である。AIに対する警戒を解く言説にも赤旗法のにおいがプンプンする。まずはAIの限界を知る必要がある。AI応用の一つに自動走行車があるが、フルに活用する時代にはまだ遠い。このことを学ぶために情報通信政策フォーラムでは1月21日にセミナーを開催する。
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山田 肇 情報通信政策フォーラム(ICPF)理事長/東洋大学名誉教授