どうする日本のAI医療!

中村 祐輔

今年元旦のNature誌に「International evaluation of an AI system for breast cancer screening」(乳がん検診でのAIを利用した国際的な評価)、そして、Nature Medicine誌の1月号に「Near real-time intraoperative brain tumor diagnosis using stimulated Raman histology and deep neural networks」(ほぼリアルタイムでの、Raman法と深層学習を利用した手術中の脳腫瘍診断)と人工知能(AI)の臨床応用を目指した2つの論文が掲載されていた。

おそらく、AIによる画像診断は急速に、医療の広い分野で実用化されるだろう。乳がんのAI診断については、いずれその時が来ると考えていた内容なので、あまり驚きはしなかった。

米国と英国の共同研究だが、結果として擬陽性が5.7%と1.2%(それぞれ、米国と英国)減り、偽陰性が9.4%と2.7%減少したとのことだった。おそらく精度はどんどん上がっていくだろう。

見落とし(偽陰性)は、次の検診までの間にがんが進行するというので大問題だが、擬陽性はバイオプシーなどの不要な検査につながるので被験者にとっても医療側にしても負担が増える結果になる。それでも現状よりは改善されそうだ。

しかし、精度が高くなっても、医療費の観点から考えると、すべての女性に毎年検査をするのは無理だろう。やはり、遺伝的なリスクや生活要因リスクなどを考慮した個別化検診システムの導入が不可欠ではないだろうか?そして、そのようなリスク診断にもAIが利用されるに違いない。

そして、少し驚いたのが、二つ目の手術時の迅速病理診断をAIが行うという論文だ。手術の際に手術室で採取された試料を用いての病理診断は日常的に行われていることだ。この論文で紹介された内容は、手術室に持ち込んだ小さな機械(といってもホテルの部屋に置かれているような小さな冷蔵庫程度のサイズだが)に手術で採取された組織を小さく切って機械に入れるだけだ。すでにその模様をYouTubeで見ることができる。

250万の脳腫瘍のイメージ画像を機械学習して、細胞の大きさや形、核の大きさなどから、がん細胞の有無を判定するシステムで、すべて(機械に組織を入れてから診断するまで)の時間が約2.5分という優れものだ。もちろん、多くの病理診断で行われている細胞を色素で染めるような必要はない。

私は人工知能と高解像度画像(4Kではなく、8Kや16Kの画像)で、これまでは見えなかったようながん細胞の特徴や他の疾患の病態が明らかになってくると信じている研究者の一人だ。日本の持つ画像技術を人工知能と組み合わせれば、まだ勝機はあると思うが、発想が小さすぎては海外に追いつけない。

20年前には一人の人間のヒトゲノム情報さえ、明らかになっていなかった。それが今や、10万円弱で一人のゲノム情報を得ることができ、われわれのがんに関する理解は100万倍くらい増えた。新しい技術が生まれれば、病気に関する理解が格段に深まる。そして、病気を克服するための道を切り開くことができる。

新しい技術を生み出す原動力は、今わかっていないことを明らかにしたいという好奇心だ。残念ながら、今の若者は研究費を獲得するための口実を探すことに汲々としている。評価が歪めば、研究者の姿勢も歪んでしまう。今が踏ん張りどころだ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年1月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。