私は年末にカナダでの日本の書籍販売事業を買収しました。「今更書籍?」「いけてない」「センスないでしょ」と言われると思います。実は書籍事業の会社の面倒を過去3年ぐらいみていたのですが、その際、思ったことがあるのです。この事業、このままやれば5年の余命。しかし、やり方次第ではこの事業から時代の変遷に合わせて波乗りサーフィンができるのではないか、と思ったのです。
ある意味、リスクテイクをした賭けでありますが、時代の変化があまりにも早い中でそれを指をくわえてみていると何もしないうちに景色が変わってしまい、自分はどこにも対応できなくなると考えたのです。逆転の発想です。私が小さいながらも7-8種の事業を同時に行っているのは世の中のトレンドを事業者の目線で探っているともいえます。
書籍事業に関しては東京で経営する塾のすぐそばに半年ほど前、幼児書専門の小さな書店がオープンしたことに刺激を受けたこともあります。多分、5坪もない小さな店で若い奥様がエプロンをして店番をし、ご主人と思しき方が休みの日に店にいます。幼児向けの書籍(雑誌)は実は根強い需要があります。それは知育という分野においてお母さまがお子様に一番力を入れる分野であり、雑誌の知育関係の付録が欲しいのです。これは図書館で借りるというわけにはいきません。とてもニッチであり、大繁盛するわけではないのですが、こういう店が細々とながら案外うまくやれるのかもしれません。
日経に「自動車一極集中の危うさ」という論説委員の記事があります。何のことやら、と読めば製鉄会社が自動車産業に頼る構図が明白となっており、このバランスは将来的に危ういのではないか、というものです。
実は私は30年も前から鉄鋼会社と自動車会社の同床異夢を感じていました。クルマは安全のために鉄がよいといわれたのはずいぶん昔でした。その後、モノコックボディの形状にするのに鉄は都合がよかったものの最近はアルミやハイテン、樹脂系の強化素材がどんどん採用されるようになってきました。ですが記憶が正しければだいぶ前に鉄鋼業界から自動車業界に泣きが入り一定の鉄を使うという握りがあったはずです。
今から10年もすれば自動運転のクルマが出てくるでしょう。世の中すべて自動運転に切り替わるとすれば自動車同士が衝突するするリスクは更に小さくなると思われ、鉄よりも軽量で強い素材に向かうのは自明の理だと考えています。企業はどこでどれだけ変われるのか、これはその業界にいる人が必死になって考えるからこそ、転換できる部分もあります。ここが日経の編集委員の言いたいところだったのではないでしょうか?
変われた好例が富士フィルムや任天堂だったと思います。フィルムの現像なんて今、ほとんど知られていないでしょう。それを祖業とした富士フィルムは今や日本を代表する精密化学メーカーに育っています。任天堂だって花札の会社だったのにゲーム業界では一目も二目も置かれる存在です。
GAFA解体論が思った以上に根強いようです。欧州ではGAFA支配体制に厳しい姿勢を貫き、課税を行いました。トランプ大統領もGAFA、特にアマゾンにはあまり好意的ではありません。大統領選で有力候補の民主党のエリザベス・ウォレン議員はGAFA解体を政権公約にしています。
ついこの前までGAFAを中心とする世界覇権が当たり前のように言われていたのに解体論が真剣に取りざたされているのです。それは「勝ち組の方程式」が必ずしも人々から好意的に思われなくなってきたことではないでしょうか?その点では楽天帝国も私はあまり楽観視していません。
企業や産業の寿命という話はよく聞かれます。今、流行しているビジネスやビジネス構造が5年後にも機能しているか、その確率は5割ぐらいしかないというのが私が多種の事業をしている中で感じていることです。だからこそ、事業の形を変え、改善を加え、更には一種の新陳代謝であるスクラップ・アンド・ビルトを自分の事業の中でどんどん進めていくしかないのです。
企業の経営者は本当に自分との勝負だとつくづく感じます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年1月15日の記事より転載させていただきました。