懸念するエコノミストを懸念する
中国経済の減速を懸念する声が圧倒的に多いようです。共産党独裁の習近平政権にとっては、国民の不満が高まるので、懸念するのは当然でしょう。中国は巨大市場ですから、世界経済への影響も大きく、日本を含め諸外国も懸念しています。私はその逆で、懸念はせず、中国経済の減速を歓迎します。
中国経済が減速すると、対中輸出が減り、特に日本への影響は大きいでしょう。「世界のビジネスに暗雲」だとか「減速に歯止めをかけ、持続的な成長の確保を」といったトーンの記事が多い。エコノミストのコメントの多くが中国の現状、将来を懸念しています。私はそのことをむしろ懸念します。
新聞の見出しを見てみましょう。「中国6.1%成長に減速/29年ぶり低水準」(日経)、「中国経済に高齢化の影/迫る団塊世代の退職、しぼむ内需」(同)、「中国経済が勢い失う/世界経済に影/日本企業は受注減」(読売)。成長鈍化にがっかりした受け止め方や分析が大勢を占めています。
軍事的膨張を支えてきた高度成長
中国経済はむしろ減速したほうが世界のためになる、という側面を見落としてはいけません。中国は富国強兵路線を続け、驚異的な経済成長が超大国に押し上げてきました。今後も軍事的な膨張が続いたら、米中の覇権争いは激しさを増します。「一帯一路」と称して、昔のシルクロード沿いに巨額の資金も貸し付け、中国経済圏に取り込もうとしています。
また、香港の民主化要求のデモを弾圧する国が、さらに超大国になるのは好ましくありません。国民の自由を認めない非民主的な国が存在感を高めていくと、世界における民主主義国は影が薄らいでいきます。すでに民主主義国において、政治の独裁色が強まり、ポピュリズムが蔓延し、民主主義は斜陽の時代を迎えています。
地球温暖化、大気汚染の問題はどうでしょうか。中国の一酸炭素(CO2)の排出量は年間93億トンで世界最大です。2位は米国で47億トンで、この2国だけで排出量の半分近くを占めます。中国は「2030年前後までに排出を減少に転じさせる」という方針です。
成長鈍化は地球環境にもよい
CO2問題はこれまで先進国が垂れ流してきた結果であるというのが、中国の本音です。本気で削減に取り組むつもりはないようですから、経済・産業活動が減速する結果、CO2排出量が減っていくことしか期待できません。この面からも、中国経済の減速は歓迎します。
中国経済の減速は、警戒的な金融財政政策、米中貿易戦争、中国にもやってきた少子高齢化などに起因しています。さらに経済数値の水増しをなくし、正確な統計の発表に転換しようとしているのかもしれません。ですから習政権の意図した結果、経済・人口構造の必然的な結果ではありましょう。
「14億人の人口大国は、並み外れた超大国に変容するのか。そうは思わない。出生率は低下を続け、高齢化は加速し、中国人は裕福になる前に老いてしまう」。仏の歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏の予想(読売、1/12)です。それなら大いに結構ですね。
経済専門家は成長率の鈍化を懸念し、政治・外交の専門家は中国の軍事的な脅威を懸念しています。双方にまたがる論評が必要な時です。経済・産業界も、もっぱら対中輸出論を軸に中国経済を論じる習性から脱皮すべきでしょう。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年1月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。