少し、遅くなったが、重要なテーマだから読者に報告する。
フランス南東部のリヨンで14日、ローマ・カトリック教会の元神父ベルナール・プレナ被告(74)の未成年者への性的犯罪を巡る公判が開かれたが、同元神父は公判2日目の15日、「自分も少年時代、同じように聖職者から性的虐待を受けたことがあった」と告白し、公判に参加した関係者を驚かせた。
同被告は1971年から91年の間、未成年者のボーイスカウトの少年たちに性的虐待をした容疑で起訴された。同神父は昨年7月、罪状を認めたことから、教会法に基づき聖職をはく奪されている。
公判では元神父に性的虐待を受けた犠牲者たち(当時7歳から10歳)が生々しい証言をした後、元神父は「良くないことだと分かっていたが、衝動を抑えることができなかった。上司の聖職者に相談したが、適切な指導を受けなかった」と説明した。
世界各地で聖職者の未成年者への性的虐待が発覚し、罪の呵責から自殺する神父が出るなど、ローマ・カトリック教会は大きな難問に直面していることはこのコラム欄で報告済みだ。裁判で6年の有罪判決を受けたオーストラリア出身のジョージ・ぺル枢機卿、プレナ被告のように教会の教会法に基づく裁判で処罰を受けた後、公の裁判で追及されるケースが出てきた。
カトリック教国のフランスでは、駐仏のバチカン大使、ルイジ・ベントゥ―ラ大司教(75)が2人の男性に性的行為をした容疑でフランス検察当局に調査を受けている(フランシスコ教皇は昨年12月17日、同大司教の辞任を受理している)。リヨン大司教区のフィリップ・バルバラン枢機卿(68)は昨年3月7日、聖職者の未成年者への性的虐待事件を隠蔽したとして執行猶予付き禁固6カ月の有罪判決を受けた、といった具合だ。
世界に約46万人の聖職者(教区神父、修道僧、助祭など)がいるが、プレナ被告の例は、本人自身が聖職者の性犯罪の犠牲者でもあったという点で特異なケースだ。しかし、高位聖職者が若い時代、他の聖職者に性的虐待を受けたケースは過去にも報告されている。
オーストリアのカトリック教会最高指導者シェーンボルン枢機卿は、「自分も若い時、神父に身体的な接触を試みられたことがある、幸い、逃げることができた」と告白している。枢機卿は詳細な状況を説明しなかったが、プレナ被告のような悪夢の体験をしなくて済んだわけだ(「枢機卿の『告白』と元修道女の『証言』」2019年2月9日参考)。
カトリック教会の聖職者だけではない。父親に性的虐待を受けた子供が成長し、家族を持った後、自分の娘、息子に同じように性的虐待をするというケースは少なくない。若い時代の犠牲者が成人後、加害者になるわけだ。プレナ元神父の告白のように、カトリック教会でも例外ではないわけだ。
プレナ被告の問題は深刻だ。AFP通信によれば、「神父と聖具保管係、神学生の計3人から繰り返し性的虐待を受けた。教会指導部に手紙を書いて報告したが、教会からの対応はなかった」という。そして加害者となった後、罪を告白したが、「罪は許される。2度としないように」と諭されただけだという。同被告は、「教会指導者は私を救うべきだったが、何もしなかった。そして私を神父にした」というのだ。
プレナ被告の場合、教会指導部の責任は大きい。①教会指導部が聖職者の性犯罪の報告を犠牲者から聞きながら、対応しなかった、②プレナ被告が性衝動に苦しんでいることを知りながら、彼を神父にした、の2点が挙げられる。
バチカンニュースは昨年12月、「バチカンは2001年以来、6000件の聖職者の性犯罪を調査してきた」と報じた。この数字は実際起きた聖職者の未成年者への性的虐待総数の氷山の一角に過ぎないだろう。実数はその数倍になるものと受け取られている。
バチカンは聖職者の性犯罪に対しては教会指導者の隠蔽、もみ消しを厳禁し、迅速な対応を要求し出したが、教会が聖職者の性犯罪で失った信頼はもはや取り返しがつかない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年1月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。