アルゼンチンから自動車メーカー20社以上が輸入販売撤退?

白石 和幸

アルゼンチンで左派系のアルベルト・フェルナンデスとクリスチーナ・フェルナンデスの大統領と副大統領が昨年12月10日に誕生してから、新政権は経済回復策として「社会的結束と生産性回復の為の法案」を両院で早速可決させた。

この法案が可決する前から「自動車輸入業者並びに販売業者連合」はこの法案が可決するような事態になると、アルゼンチンから自動車メーカー20社以上の輸入車種がアルゼンチンから姿を消すようになると警告していた。

ブエノスアイレスのタジバ港の自動車輸出入ターミナル(automotivelogistics.mediaより引用)

この警告をよそに前述の法案は可決し今月から車の販売価格に応じて25%と54%の課税がかけられるようになった。先ず、卸価格が130万ドル、市販価格がおよそ170万ペソ(300万円)以上の車に対して25%の税金、市販価格が310万ペソ(560万円)の場合は54%の税金がそれぞれ課せられることになった。(参照:iprofesional.com

新たに納めねばならない税金が増えたという問題に加え、この税金徴収の対象になる車が現在のアルゼンチンの車市場で43%を占めているということである。(参照:infobae.com

アルゼンチンの自動車ディーラー連盟の主張では、新しいテクノロジーを備えた車種は輸入されなくなって、市場には古くて割高な車で占められるようになる、という。さらに、同連盟は「我々が出来る戦略を練ることだ。2014年から2016年にかけてそれを実行した。2013年12月にアクセル・キシロフ(当時)経済相がドルの外国への流出を防ぐために輸入車の販売を抑えるべく税金を課したことだった」と指摘した。この方針を打ち出したのが、今回副大統領に就任したクリスチーナ・フェルナンデスが大統領の時だった。

「自動車輸入業者並びに販売業者連合」のウーゴ・ベルカストゥロ会長はイタリアのアルファロメロ、日本のいすゞ、中国の北京汽車(Baic)と福田汽車(Foton)のディーラーであるが、「(自動車メーカー)20社以上がアルゼンチンでの営業を中断するようになる可能性がある」と述べた。更に、「その結果、ディーラ175社、アフターサービスの修理屋311社、これらの事業に従事している8600人の雇用に影響することは確実だ」と語った。

アルゼンチンの「自動車生産連盟」によると、自動車業界で雇用されている従業員は26538人とされているが、自動車の生産そのものに直接従事している雇用者は15,000人で、その差11,500人は自動車メーカーで輸入している部門や輸入車のディーラで働いている従業員である。

ちなみに、この法案によってドルの国外への流出を防ぐために例えば外国に旅行してクレジットカートで支払いをすると銀行でその支払った金額に対して30%の税金が徴収されることにもなった。

アルゼンチンは景気の低迷、ハイパーインフレ、多額の負債といった問題を抱え財政が悪化している。それを補填しようとして税収を上げようとしているが、景気が硬直している上にさらに税金を増やすというのは景気後退をさらに促進させるようなものである。しかも、その税率が常識外に高すぎる。

なお、以下のリストは、経済紙「iprofesional」が輸入を中断する可能性のある22社として掲載したものだ。

1. Alfa Romeo(イタリア)2. Jaguar (英国)3. Land Rover(英国)4. Mack (米国) 5. Mini(英国)
6. Porsche(ドイツ)7. Volvo(スウェーデン)8. ヒュンダイ(韓国)9. いすゞ(日本)10. 起亜(韓国)
11. スバル(日本)12. スズキ(日本)13. Baic (中国) 14. Chery (中国) 15. DFSK (中国)
16. Foton (中国) 17. Geely (中国) 18. Great Wall (中国) 19. Haval (中国) 20. Jac Motors (中国)
21. Lifan (中国)、22. BMW(ドイツ)。