昨年2019年は、カメラ業界の歴史に残る激動の1年であった。既得権益にしがみついてきた、一眼レフの王者キヤノンと、三菱系の保守的な社風で知られるニコン。かつてのツートップの凋落が誰の目にも明らかになり、「万年3位」のコニカミノルタのカメラ事業を継承したソニーの躍進が印象に残った。
さて、前回の記事を執筆してから、いくつかの動きがあったので、ここで一度整理しておきたい。
2019年12月18日、キヤノンは、時代遅れの一眼レフの次期旗艦機「EOS-1D X Mark III」に関して、同年10月24日に発表したスペックの訂正に追い込まれた。当初の発表では、無線通信速度が、現行旗艦機「EOS-1D X Mark II」の「2倍以上」になると告知されていたものを「より高速(リンク先は赤字で訂正済み)」という表現に変更した。「2倍以上」の速度の達成は、不可能であることをキヤノンが公式に認めた。
2020年1月5日から米国で開催されたCESの会場において、ニコンは、一眼レフの次期旗艦機「D6」の実機をアクリルケースに入れて展示した。ニコンは、この実機を、来場者に触らせなかったので、これがハリボテであった可能性もある。
1月7日、ニコンは、フルサイズ一眼レフ用の望遠ズームレンズ「AF-S NIKKOR 120-300mm f/2.8E FL ED SR VR」を2月に発売することを発表した。このレンズは、昨年6月のこの記事で紹介した、ソニーの超望遠ズームレンズ「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」の競合となる。このニコンのレンズは、望遠側がソニーの半分の焦点距離しかないが、2倍のテレコンバーターを使用すれば、600mm相当になる。テレコンバーターの着脱が面倒ではあるが。
同日、キヤノンは、昨年10月に開発中であることを発表した一眼レフの次期旗艦機「EOS-1D X Mark III」の発売日が2月中旬になることを発表。詳しいスペックが明らかになったが、昨年のこの記事で指摘した一眼レフの2つの重大な弱点は克服されていない。
2016年に「EOS-1D X Mark II」が発売された時、キヤノンマーケティングジャパンには、口を酸っぱくして改善するように言っておいたのであるが、非常に残念だ。2つの重大な弱点が克服されていないにもかかわらず、どうでもいい点では、無駄に性能を向上させている。
「EOS-1D X Mark III」の実売価格は80万円程度と思われるが、50万円を切る価格で販売されているソニーのフルサイズミラーレス一眼旗艦機「α9 II」の方が遥かに魅力的であるという私の見解に変化はない。
2020年の今、敢えて「EOS-1D X Mark III」を買うのは、以下のようなタイプだろう。
- ソニー「α9 II」の操作を覚えるのが面倒な人
- キヤノンと何らかの「しがらみ」がある人
この2点に当てはまらないのであれば、「α9 II」が既に市販されているのに、「EOS-1D X Mark III」を買う合理性を見出すことはできない。Canon Europeは、この記事で一眼レフに優位性があると反論を試みているものの、苦しい言い訳にしか聞こえない。
昨年、「Z(ミラーレス)とD(一眼レフ)の両輪で、それぞれしっかりした製品を作っていく」と言ってしまい、股裂き状態になったニコンはさらに苦しい。「D6」の開発が「EOS-1D X Mark III」より遅れており、フルサイズミラーレス一眼旗艦機の投入は、2020年東京五輪までに間に合わないかもしれない。
2020年のカメラ市場は、波乱含みの幕開けとなった。カメラ市場の動向には、引き続き、注視していきたい。