クルーズ船の感染率の高さは、飛沫感染だけでは説明できないと指摘してきたが、19日の産経新聞で「中国国家衛生健康委員会は19日、新型コロナウイルスの感染ルートについて、従来の飛沫(ひまつ)感染と接触感染に加えて、霧状に浮遊する粒子に混じったウイルスを吸引する「エアロゾル感染」の可能性があるとの見方を示した」と報道されていた。
結果論ではなく、異常に高い感染率の高さから、エアロゾル感染、あるいは、空気感染の可能性を考えておけば、クルーズ船に対する対応は変わっていたかもしれない。感情論として部屋に閉じ込めるのは可哀そうという議論はわかるが、エアロゾル感染を想定すれば、「感染の封じ込め=部屋に閉じ込め」が必要だったのかもしれない。
しかし、現実的には3700名を船外で収容できるような隔離施設は日本にはない。ベストではなく、ベターな選択肢であったと思うが、結果はワーストになってしまった。
反省点は多いが、新しい感染症の場合、感染力、致死率、感染がどのように広がるのかはわからないのだから、これまでの対応を無責任に批難しても生産的でない。特に、クルーズ船という特殊な環境でシミュレーションができていなかったのだから、無理もないのだ。
テレビで某大学の教授が死の恐怖を感じたようなコメントを発したYouTubeを取り上げていたが、すでに重症化し易い人は、高齢者で持病持ちとわかっているのだし、致死率は低いと言える数字ではないが、SARSやエボラ出血熱と同列で騒ぐのはどうかと思う。
私もクルーズ船の対応には疑問を感ずるが、今のわれわれに求められるのは、国内でのこれ以上の感染拡大を防ぐ方法であり、治療法を見つけ出す戦略だ。いたずらに、対策の非を追求するのではなく、「熱や咳がある人は外出しない」、「会社もこのような状況に人に対して、出勤として扱う」「感染した可能性のある人にどんな対応ができるか」などの社会的対応だ。
通勤電車内で、咳をしているのに、マスクをしていない人の姿を散見する。一人が3人に感染を広げると、第10次感染で万単位の感染者が出る。観光産業などへの影響は必至だが、国民の健康と命を守ることの方が優先だ。国民一人一人が高い意識で感染を広げない気持ちで対処する覚悟が必要だ。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年2月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。