新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。先手を打つなら、もっと厳しい移動制限をすべきだと思うのだが、後手後手になっている。クルーズ船では、検査を受けた1723名のうち、総計454名と26%の陽性率だ。1人の感染者から倍々になっても、翌日から9日後にようやく512名となる。検査を順次進めていくと約3700名からの感染者の総計が1000名を超えてしまう可能性もある。
私は3月初めに東京で国際学会を開催予定の私の弟子から、どうすべきかの意見を求められたとき、クルーズ船でも3桁の患者が出る可能性があるので、学会は延期した方が良いとアドバイスしたのだが、4桁に届く可能性が高くなってきた。感染形態が本当に言われているような飛沫感染だけなのか、私には疑問だ。
そして、当然ながら、日本の通勤状況を考えると、1人の感染者がいると、クルーズ船と比較にならないような膨大な濃厚接触者の数となる。米国では1人の患者が5〜6人に感染を広げる可能性が指摘されているようだが、通勤電車ではこの比ではない。時差通勤を国レベルで呼びかけるなどの対策、あるいは、中国のようなもっと厳しい措置が必要ではないのだろうか?ボヤの段階で全力を挙げて消火しないと、大火事になるが、私はすでにボヤの段階を過ぎたような気がしてならない。
と考えながら、本当に高齢者だけがかかりやすいのか、そして、それが事実ならなぜなのかを考えて見たい。テレビ番組で、当初、クルーズ船では高齢の感染者の割合が多いと言っていたが、これはあまりにもリテラシーに欠けている。クルーズ船の乗客や検査をした対象者には高齢者が多いのだから、陽性者に占める高齢者が多くて当たり前なのだ。
多くのメディアは分母を考えず、分子だけで論じるが、色々な報道に際して指摘しているが、基本的な統計学の知識が決定的に欠落している。感情的な判断や印象操作ではなく、この問題には医学的・科学的な考察に基づいた判断が必要だ。
と文句を言いつつも、高齢者が重症化しやすいのは事実のようだ。子供の感染例は明らかに少ない。顕在化していないだけかもしれないが、免疫力の差があるのかもしれない。私はシカゴにいる時、自分自身のT細胞のレパトア(多様性のようなもの)を調べたが、他の教室員を含む若い人たちとは大きく異なっていた。
例えば、高齢になるといろいろなウイルスや細菌に暴露されるために、特定の抗原に対するT細胞が増える。リンパ球の総数はあまり変わらないので、その結果として、いろいろな細菌やウイルスに反応できるリンパ球の多様性が欠けているのだ。免疫の重要なところは、多様性だが、それが欠けると今回のような新種のウイルスに対応できる免疫細胞が十分に残っていない可能性がある。
糖尿病患者は一般的に免疫能が落ちているので、基礎疾患があると重症化しやすいのはそれが理由かもしれない。私も基礎疾患有りなので要注意だ。
私の危機意識が高過ぎるかもしれないが、私の懸念が杞憂に終わって欲しいと願っている。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。