虚しすぎる政府の国会答弁
安倍政権は、お気に入りの東京高検長の黒川氏を今夏、検事総長に据えたいとみられています。「そのために検察官の定年規定を突如、変える」「国家公務員法と検察庁法の解釈も突然、変える」「その法的手続きも法相が口頭で決済したと答弁」となり、国会が騒然となっています。
不透明な公文書管理、官邸に服従しすぎる官僚がこれまで何度も批判されてきました。しかも法の支配(ルール・オブ・ロー)、法の正義を守るべき法務省、検察庁のトップ人事におけるルールの無視、恣意的な法の執行はひどい話です。
法の規範を軽んじる安倍政権は、批判に耳を傾けず、人事構想は撤回せず、強硬突破するつもりでしょう。「桜を見る会」騒動に比べても、法的には筋が悪すぎる。ここはもう、黒川氏は検事総長就任の打診があっても辞退し、法の支配という民主主義の基本的精神を守る側に立つべきです。
米国のノーベル賞受賞者のスティグリッツ教授が近著「プログレッシブ・キャピタリズム」で、「法の支配を通じて権力者から一般市民を守るという米国本来の価値観に立ち止まろう」と、主張しています(日経書評2/22)。
「法の支配が権力者を守る」ことになりかねないのが今回の検察人事の問題です。
米国のバー司法長官はトランプ氏が気に入った人物の起用でありながら、長官は「大統領は元側近の量刑軽減を要求するようことをすべきではない」と批判しました。トランプ氏から報復される恐れがあると、指摘されると「私は正しいと思ったことをする」とまでいうではありませんか。
日本の検察庁法の定年規定は「検事総長は65歳、その他の検察官は63歳」となっております。国家公務員は原則60歳定年(事務次官62歳)で、「一年を超えない範囲で延長できる」です。ただし「国家公務員法の定年延長規定は検察官には適用されない」という区分けがなされてきました。
それにもかかわらず、黒川氏に限って定年延長を認めてしまいました。安倍首相は「今般、国家公務員法の規定(一年延長)が適用されると解釈することとした。人事は法務省で適切に判断されると考えている」と答弁し、野党は唖然としました。「官邸が判断したことでないの」と。
きちんとした論議を経て、法改正すべき案件なのに、首相が「法解釈を変更することにした」と、あっさりかわせる話ではありません。森法相は国会答弁で「定年延長の法解釈の変更について、省内の決裁を口頭で行った」と述べ、これまた異例かつ乱暴すぎる。こんな重要人事の扱いを「口頭で決済」するなんてありえず、それこそ「口頭無形」、いや「荒唐無稽」な措置です。
強引な人事を後から、あわてて理由づけしようとするから、あちこちで、こじつけしなければならなくなったということでしょう。法の規範、法の支配もないがしろにされています。
ではどうすればいいのか。「黒川氏は検事総長就任を打診されても辞退し、この問題を白紙に戻す形をとる」、「政府は国家公務員の定年を65歳まで徐々に延長する法改正を準備しており、これに検察官の定年延長を含める」「民間企業でも年金問題との絡みで65歳までの雇用を進めており、公務員もその流れに乗せるなら国民に理解される」。
さらに「法解釈の変更、口頭による決済という融通無碍な対応ではなく、きちんとし議論し、文書に残したうえで公務員法、検察庁法を改正する」です。そのためにも黒川さん、検事総長を辞退し、法の規範を守るという道選を選択すべきです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。