新型コロナウイルスの感染拡大。当初は花粉症の季節なのにマスクが手に入らないで困ったなぁ…などと思っていたくらいだったが、状況は刻一刻と悪化。とうとう安倍総理が全国の小・中・高校などを一斉に臨時休校するよう要請する事態にまで発展した。
ここに至るまでの経緯について、政府の対応には賛否様々な意見があるが、ここは与野党問わず、挙国一致でコロナ禍の沈静化にあたって欲しいと願わずにはいられない。しかし、強制力は無くとも、とにかく学校が臨時休校となるのであれば、その保護者たる労働者のみならず、雇用する企業にとっても悩ましい状況に陥ることになるのは容易に想像が出来る。
子育て中の社員は休まざるを得ない実情
既に大手企業では在宅勤務などを導入しているところが出ているが、中小企業などでは環境整備が整っていないケースが多いと思われ、また製造業や販売業、サービス業など、そもそも在宅勤務が不可能な職種もある。
自宅兼店舗での自営業なら良いということでも無いが、仮に共働き世帯であれば、どうしても夫婦どちらかが「休む」ということを選択せざるを得ないだろう。
自分自身の経験を振り返って思うが、高校生はまだしも、中学生を家に残すのは少し心配だし、小学生ではかなり心配だ。ましてや低学年では絶対に無理だろう。学校関係は休校にする一方で保育園や学童保育などは原則開所するらしく、一定の配慮をしているということかも知れない。
しかし、そもそもこの整合性に欠ける策を講じてみたとて、やはり「休み」を選択する保護者は多いだろう。その時、果たして企業はどのように対応してくれるのだろうか?
労働者には出社して働く義務があるが…
労使ともに普段はあまり意識することは無いと思うが、「働く」ということは企業(使用者)と労働者が労働契約を締結することであり、労働者は企業に労務を提供する“義務”を負い、企業はそれに対して約束した対価(賃金)を支払う“義務”を負っている。
仮に業務に起因する負傷や疾病によって労働者が労務を提供出来なくなれば、企業は責任を持ってこれに対処しなければならない。一方、業務上外の事情により、労働者が労務の提供を出来なくなれば、ノーワークノーペイの原則によって対価を得ることは出来なくなる。
例えばスキー出かけて転倒・骨折してしまい、2ケ月間、仕事が出来なくなった場合、その間の給与が支払われないとしても企業を訴えることは出来ない。就業規則や賃金規程等でその保障が謳われていれば別だが、これは至極真っ当な理屈だ。
余談だがこういう私傷病の場合、社会保険などに加入して一定条件を満たしていれば「傷病手当金」という給与の一定額分の補填が受けられる。これは国民健康保険には無い制度だ。よく保険料が高いと不満を言う被保険者がいるが、保険料の半額を企業が負担してくれる言わば所得補償保険に加入出来るのだから、逆に感謝すべきだろう。
法律上で認められている『子の看護休暇』とは…
話を戻すが、今回の安倍総理の要請で学校が休校となり、その結果として労働者が休んだとしても、現状では残念ながら欠勤となる。それは労働者が子を養育するという私的な理由に基づく休みだからだ。そうであれば基本的には無給となるであろう。
なお、混同される方も多いのだが、『子の看護休暇』という育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)における法律上で認められた制度がある。
これは一定の条件を満たす小学校就学前の子を養育する労働者が企業に申し出すれば、1年に5日間の育児休暇を取得出来るという制度であり、この場合も有給となるか無給となるかは、その企業の取り決めによる。多くの企業、特に中小企業の規定では、無給としているケースが大半だと思われる。
安倍総理は『有給休暇』を理解してるのか?
既に多くの識者が指摘されておられるが、子の養育のために休めば、派遣労働者やパートタイム労働者など、労働時間が収入に直結する人々だけでなく、正規労働者世帯であっても欠勤控除の対象となってしまう可能性は非常に高く、ことにシングルペアレント世帯などは本当に厳しい状況になりかねない。それを補填する手段として『有給休暇』を活用することは選択肢の一つではあろう。
そういえば、やはり法律上で認められているこの有給休暇について、安倍総理が「取りやすいよう対応して」と企業に呼び掛けたことがネット上で炎上しているようだ。昨年4月から働き改革の一環で有給休暇の取得義務化がスタートしているが、こんな発言が出るようでは確かに有給休暇の本質を理解していないのでは?と言われても仕方あるまい。
有給休暇はあくまでも労働者の自由意志のもと、好きな時に理由を問わず休むことが保障される制度であって、本来的には身心のリフレッシュのために使われるべきだ。自身の病欠に備えてとって置きたいという気持ちは理解出来るが、政策に振り回された結果、好まざる時期や用途で消化されるような類の権利ではない。
今回ばかりは特別な政策配慮が必要
時限立法なのか特別措置法なのか、何が適切で今の状況にマッチするのか門外漢の自分には良くわからないが、今回の休校に関連して休暇を取得せざるを得なかった労働者に対し、企業に代わって給与の補填、或いはヘルパーを雇う経費補助などを実施すべきではないか?出来うるならば自営業者の世帯にも同様の支援を願いたい。
財源が無ければ「子の養育特別所得税」みたいな制度を創設したとしても、国民の理解は得られるのではないか?是非、野党も一緒になって知恵を出して協力して欲しい。
卒業式が実施出来るのか否か、人生における節目が無くなってしまう可能性のある決断を下した以上、天秤の片側にだけ重しを置くような政策ではなく、もう片側にも特別な配慮を置く政治決断を早急に下すべきではないだろうか。
※
【アゴラ研究所よりお知らせ】アゴラ出版道場卒業生でもある源田裕久さんの初の著書『中小企業の「就業規則」はじめに読む本(仮)』が4月下旬に発売されます。