中国の武漢に発し、今では韓国、日本などアジアの国々でも多くの感染者や死者が出ている新型コロナウィルスによる肺炎だが、ヨーロッパではイタリアで26日の時点で400人の感染者が出て12人が死亡し、11の都市を封鎖するなどして、世界から注目されている。
今回イタリアで感染者が多く出たミラノのあるロンバルディア州やヴェネチアのあるヴェネト州は中国からの観光客が多いことがその原因である可能性は高い。なにしろ中国人観光客は至る所で多数見かけられたからだ。
私もイタリアにはよく行くが、その際に家内の買い物に付き合って、ミラノからかなり離れたところにあるブランド品のアウトレットに行ったりすることもある。ミラノからローカル線の快速で約1時間、そこから各駅停車のディーゼルカーに乗り換えてさらに約1時間かかるピエモンテ州の山裾の街にグッチやゼニアなどを製造している工場群があり、それらの工場に隣接してアウトレットがあるのだ。
日本で正規に買う数分の1から10分の1くらいの値段で売っている穴場だが、さすがにここまで来ると日本人の姿はほとんどない。一度だけミラノ在住の日本人男性が買い出しに来ているのに出会っただけだ。ところが3年前に行ったときのことだが、そのひなびた3両連結のローカル線の車両の一つを中国人がほとんど占拠しているのに出くわしたことがある。みんな大きなスーツケースを抱えていて、大声でしゃべりまくっていたが、これからどんなグッチを買おうかと相談していたのかもしれない。
現在ヨーロッパのいくつかの国でイタリアから帰国した人たちの感染が発覚しているため、イタリアはヨーロッパでの新型コロナウィルスの震源地のように思われているが、私はこれからは震源地はイタリアからフランスに移るのではないかと危惧している。
なぜなら、中国人観光客をヨーロッパでもっとも多く受け入れているのはフランスだからだ。ヨーロッパの他の観光国同様にフランスも中国人観光客が近年急増しており、2009年から2018年までに約3倍に膨れ上がって2百20万人の中国人観光客がフランスを訪れた。フランスの雑誌(L’Obs)によれば、このうち武漢からの旅行者は7.4%もいたそうだ。中国とフランスを結ぶ航空便は最近でこそガラガラだそうだが、今年の初めまでは週100便が飛んでいた。
中国政府が団体での海外旅行を禁じた今では、パリのギャラリー・ラファイエットというデパートも静かになっているが、2年前に私達がそこの香水売り場に行ったときはフランス人の売り子たちが中国人に見えた私たちに香水を売ろうと、盛んに中国語をしゃべりながら近づいて来たものだった。
また、シャルルドゴール空港の免税手続きのカウンターの前の行列では、中国人旅行者のために中国人の空港スタッフが交通整理や手続きの支援を行っていたし、ルーヴル美術館に行けば、中国人の個人や団体の観光客であふれかえっていて、むせかえるほどだった。
今のところフランスでは感染者が57名で死者が2名にとどまっているが、すでにイタリアへの渡航歴がなく感染経路が不明の者が出ている。
フランスのオリヴィエ・ヴェラン保健相は28日の記者会見で、フランスもいよいよ新たな流行のステージに入って来たと言って、握手を避けるようにと言ったが、フランスでもヨーロッパ諸国でよく見られる慣習として、友人等と会った際は握手だけでなく頬と頬を合わせてキスをするような挨拶をするので、濃厚接触の危険性は高い。
先週火曜日にフランス人として初めて新型コロナ肺炎で亡くなった60歳の教員が治療を受けていた病院のスタッフを激励に訪れたマクロン大統領は1時間余りもそこに滞在した後、イタリアのナポリで開催された定例の仏伊首脳会談に出かけたが、マスクは一切着用していなかった。
事前に大統領に衛生面のアドヴァイスをした保健省の保険総局長は、大統領が手洗いを頻繁にしたり、大統領の随行者が大統領が必要になればいつでもアルコール消毒できる準備をしておく必要はあるが、マスクはしなくてもよいと言ったと伝えられているが、これでは認識が甘過ぎるのではなかろうか。
これからイタリアに続いてフランスが新型コロナウィルスの感染拡大地になることが大変懸念される。