弾劾請願が140万超!窮地の文大統領、今年の三一節演説の中身

高橋 克己

韓国の三一節(日治期の独立運動記念日)は3月1日、折からの新型コロナウイルス肺炎蔓延のため、「文大統領、国会議長、大法院長など約50人だけが参加し」(中央日報)、1920年に1周年式典が行われたというソウルの培花女子高で、101回目の式典が催された。

三一節の記念式典で演説する文大統領(韓国大統領府Facebookより:編集部)

本稿は、文演説に関する翌2日の韓国主要4紙(日本語版)の報道ぶりから、今年の文演説の傾向や各紙の青瓦台に対するスタンスなどを探る。中央日報が記事中で140万人を超えたとした「文在寅大統領の弾劾を求める青瓦台国民請願」も見てみた。

朝鮮日報は、冒頭に、文氏が挨拶中盤で新型肺炎に絡めて触れた「内部的には当面の“新型コロナウイルス”を克服し、外部的には“韓半島の平和”を成し遂げ、揺るぎない大韓民国を作る」、「それが真の独立であり、新たな独立の完成だ」との一説を据えた。

早速この一文に違和感を覚えた。“韓半島の平和”が“外部的”か?と思うからだ。“真の独立”などと続くなら、それは紛れもなく“内部的”な問題ではないのか。南北朝鮮統一という“内部的”な問題で世界に迷惑を掛けている、という自覚が文氏にはないらしい。

同記事は、「これまでの三一節記念式典での挨拶とは違い、・・日本や北朝鮮との問題ではなく、新型コロナウイルス感染症について主に取り上げた」とする。が、4,400字余りの挨拶文を読むとそうではなく、半分近くは独立運動について述べている。例えばこんな風に。(一部を要約)

1919年12月、臨時政府は民主共和国の「大韓民歴」で3月1日を独立記念日「国慶節」と表示、「大韓人が復活した聖日」とした内務部布告を公布して上海で初めての三一節記念式と祝賀式を行い、全国・海外の至る所で同時に展開された記念の万歳デモにおいて中核的な役割を果たした。

西大門監獄では柳寛順烈士と独立運動家たちが命をかけて独立万歳を叫び、東京やウラジオストク、米仏でも独立と民族の自主を宣言した。同胞がいる場所どこであろうとも、三一独立運動記念式は日帝強占期を通して絶えることなく行われた。

日帝は特別警備と取り締まりでその日の記憶を消し、沈黙させようとしたが、学生たちは同盟休学で、商人たちは休業で、労働者たちはストライキで三一独立運動の精神をよみがえらせた。

これらがどこまで真実なのかは、本稿では措く。が、45年8月15日、すなわち彼らのいう光復から48年8月15日の大韓民国建国までの3年間に朝鮮半島で何があり、米国にいた李承晩を除く海外の臨時政府の者達が、その後にどういう立場を占めたのか。

簡単にいえば、上海臨時政府の初代大統領李承晩が25年に失脚後に後継した金九ら(当時は重慶)は、帰国後、米ソの両軍政から相手にされなかった上、彼らの帰国を待望していた南北の民族主義右派の重鎮二人のうち、南の宋鎮禹(東亜日報社長)は金九らの無能を見限り、離れていった。

北の民族主義右派曺植晩(後に金日成が粛清)も、上海天長節爆弾事件などの義烈闘争(テロ)を指導して臨時政府で頭角を現した、東学から出発した義兵・農民運動家上がりの金九らとは、結局は相容れなかった。強固な反共の李承晩も、うちに朝鮮共産党をも抱えた臨時政府と袂を分かった。

つまり、三一運動で出来た上海臨時政府は、大韓民国設立時までには全く影が薄くなり、日治時の散発的なテロで歴史に名を残すだけの存在になった。こうした前世紀の出来事の記念式典を毎年挙行し、演説で礼賛したところで、それが韓国の未来にどう役立つか、筆者には理解ができない。

報道に戻る。中央日報は文氏が「毎年3月1日、万歳の喚声が我々に勇気を与えた。今日の危機も国民全員が一緒に必ず克服するはず」と述べ、「1951年の韓国戦争の惨禍の中でも、通貨危機が襲った98年にも、過去100年間、我々は一度も欠かすことなく三一独立運動を記念して団結の“大きな力”を確認した」と冒頭に書く。

文大統領Facebookより:編集部

記事の論調は、文氏が“今日の危機”すなわち“新型肺炎”を克服するための“枕詞”に三一運動を持ち出した、とも読める。そして、その三一運動は上述の通り失敗に終わった。とはいえ他人事ではないので、韓国にも新型肺炎封じ込めではどうか成功してほしい。

同記事は、未来統合党の黄教安代表が文氏との対談で面と向かって、「礼儀」としての「国民への謝罪」を言い、「何を根拠に遠からず終息すると述べたのか」と述べたことにも触れる。13日に「終息」を口にしたわずか3日後に、大邱での集団感染が起きた件だ。

東亜日報は朝鮮日報と同じく、「内では新型コロナを克服し、外では“韓半島の平和と共同繁栄”を成し遂げ、揺らぐことのない大韓民国を作り出す」と述べたことを書き、「北朝鮮に保健分野の協力を提案した」ことを冒頭に持って来た。が、筆者のように違和感を覚えたとは書いてない。

韓国大統領府Instagramより:編集部

同記事は続けて、「日本は常に最も近い隣国」とし「過去を忘れないが、私たちは過去にとどまらない。日本もそのような態度であることを望む」と述べたことを書く。この一文は、朝鮮日報とハンギョレにはあるが、中央日報の記事からは抜けている。

書いた三紙とも、「日本の輸出規制に対する直接的な言及は避け、対日関係の改善の意向を示した」などとする。が、「日本もそのような態度であることを望む」という文氏の蛇足表現が、どれほど日本人を呆れさせる言い草か理解していないところが韓国紙らしい。

東亜日報には、文氏の演説後に李承晩をはじめ「国難克服を誓った歴代大統領のメッセージが映像で紹介されたが、全斗煥、盧泰愚、李明博、朴槿恵前大統領の映像はなかった」との、如何にも歪んだ文政権の性格が滲む興味深い一文がある。

そしてハンギョレ。「文大統領『共に』『克服』20回言及して強調」との見出しからして、他の三紙とは趣が違う。青瓦台関係者が「わが民族が三一運動の際、団結した行動を通じて独立に至った底力で新型コロナ事態も共に克服しようという意味」と述べたとする。が、先述の通り三一運動は挫折裡に終わった。

最後に青瓦台の国民請願。韓国には民主的かつ先進的な制度?があると感心する。例えば憲法裁判所やネット訴訟や辞めた大統領がほぼ罪に問われるなど、主に司法に関することだ。青瓦台へのネット請願も場合によっては司法にも関係しよう。

アクセスするとハングル画面だが、「翻訳しますか」とのバルーンをタップすると日本語で読め、こう書いてある。(翻訳を一部補正)

青瓦台直接疎通は「国民が聞く政府が答える」哲学を目指しています。国政の懸案に関連して国民の多数の声(30日間で20万人以上)が集まった請願には、政府と大統領府の責任者が答えます。

3月1日時点の公開9件の件名、(締切日)、請願人数は以下。文様応援の請願もある。

  • ユン検事総長の疑惑捜査チーム解体反対(5)→ 345,571人
  • 性搾取事件「n番の部屋事件」の根本解決のための国際協力捜査請願(1)→ 219,705人
  • 中国人入国禁止要請(22)→ 761,833人
  • 新天地イエス教証拠幕屋聖殿の強制解体請願(23)→ 1,172,500人
  • 文在寅大統領の弾劾請願(5)→ 1,416,428人
  • 文在寅大統領様を応援する(27)→ 1,161,837人
  • チュ・ミエ司法長官の解任請願(4)→ 311,321人
  • 保育園で息子が男院長から3年間性暴行をされた(8)→ 248,361人
  • コロナ19の拡散防止に頑張る文在寅大統領様と関係者に感謝する(27)→ 337,194人

こんな事案まで大統領府に請願するとは、日本人の想像力を超える。