4月24-29日にカリフォルニア州サンディエゴで予定されていた米国がん学会の、今年後半への延期が決められた。SARSが問題となった2003年にトロントで開催予定だった学会が直前に中止となったことを記憶している。
しかし、2003年の時は数日前の中止決定だったが、今回は、6週間も前の延期決定だ。当然ながら、米国CDCの考えを聞いていると思われるので、大統領のコメントよりも、CDCではかなり深刻な状況だと認識されているのだろう。
厚生労働省から公表される資料で見る限り、PCR検査の拡大はあまり進んでいない。「東洋経済」オンラインにコロナウイルスに関する統計情報が公表されているが、PCR検査数はとても統計学的に耐えうるものではない。PCR検査数に対して陽性者がどれだけあるのかが鍵だが、とにかく分母である、検査数がいつ行われたものかさえ不正確極まりない。
3月4日だけ突出して数字が大きくなっているが、これは検査を行った日にちではなく、その日に情報を収集した数字に過ぎないようだ。感染症がどのように推移しているのか、正確な疫学情報がなくては把握できないはずだが、なんだかおかしい。
そして、最悪イタリアのような状況になった時に、医療供給体制が維持できるのかどうか、相当不安だ。コロナウイルス感染症の患者が外来受診をしていた場合、これまでに公表されている例では、一定期間の外来診療の休止、病棟閉鎖となっている。これが100医療機関で起こったらどうなるのか?その対策は考えられているのか?もちろん、これは最悪に近いシナリオだが、危機管理というのはそのようなものだ。
産経新聞のオンラインに「兵庫県小野市の総合病院「北播磨総合医療センター」に勤める70代の男性医師が新型コロナウイルスに感染したことを受け、同県が当面の外来診療と新たな入院患者の受け入れ中止を要請したのに対し、同センターがこれに応じず、11日も通常通り開業したことが分かった。センター側は「院内感染の可能性は低い」としており、地域医療の拠点施設としての役割を重視し診療継続を決めた」とあった(医師感染判明の医療センター、兵庫県の診療中止要請応じず-地域医療の拠点「院内感染可能性低い」)。
批判はあるだろうが、地域医療を担っている責任感を優先したのだろう。私はかつて小豆島の病院で勤務していたことがあるので、大都市の病院の発想では地域医療が成り立たないのがよく理解できる。マニュアルを押し付けていれば、自分の責任が回避できると考える机上の空論では、世の中が成り立たないのだ。
北播磨総合医療センターの例を現実の課題として、医療関係者、外来受診者、入院患者にウイルス陽性者が出た場合の指針を策定しておかなければ、日本の医療そのものが成り立たなくなるかもしれない。高齢者が重症化しやすいデータを踏まえて、老健施設で感染者が見つかれば、バックアップを考えておくことも必要だ。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。