3月12日、ネットワンシステムズ(以下NOS)の第三者委員会報告書(最終報告書)がリリースされました。あまりにタイミングの良いエントリーになってしまいましたが、昨日に引き続き(下)をご紹介いたします。
最終報告書へのコメントはまた後日とさせていただきますが、最終報告書の「原因分析」と以下のコメントで示されているところを比較していただきますと、同じ視点、異なる視点が浮かび上がるのではないでしょうか。
それにしても2007年に発覚したIXI事件への関与を含め、NOS社は10年間に3度も大きな架空循環取引に関与していたわけです。「4度目の架空循環取引への関与はない」ということをこの最終報告書を読んだ東京証券取引所自主規制法人ほか、ステイクホルダーは確信できるかどうか・・・。
2月17日のエントリーでも述べた通り、蜜の味漂う架空循環取引は増えこそすれ、減ることはありません。その誘惑からNOSは今後絶対に距離を置くことができるか、注目すべき点です。
(以下、某氏のコメントの続き)
外資系IT企業出身者が経営幹部を占めるNOSでは、幹部の多くがハイタッチ営業経験者の可能性は高く、共有されるバックグラウンドから“営業ノルマが厳しすぎた”のでないかと指摘はある。ハイタッチ営業は“コミッションセールス”であり、業績いかんで、報酬の大きな差異はあろうし、業績への意欲、執着は相当高いかもしれない。その可能性は十分に考えられる。
ここでは少し違う視点を指摘したい。A氏の動機が、より切実なものであった可能性である。報道によればA氏は中堅営業とあり、仮に40代営業と考えれば、自分のキャリアの先が概ね見え始める頃であり、自分の“居場所”を確保、維持することが動機の一つになったのではないか。
NOSはこの10年で、地味な老舗ITインフラ企業というイメージから(やや強引にも見えるが)イメージを変えつつある。ステータス高く、高感度ショップに隣接した本社を構え、HPや会社案内で見るに、社内はまるで外資系かと見紛うほど、ユニークな空間もあるようだ。
評価制度、報酬制度、人事制度は当然のごとく、業績に強く連動させているであろうし、特にその運用は業績ありき、業績あっての強権、恣意と写っていた可能性はある。
厳しくなっていく評価のもと、A氏は大きな失注に動揺し、自分の目先“居場所”の確保に焦り、自己防衛本能より不正に手を染め、結果的に、業績さえあれば保身以上の評価や信任を得て、その維持こそが強く目的化したのではないか。
現在、第三者委員会にて鋭意解明されつつあるが、今後、関係者から周辺情報が漏れ伝わる可能性はある。多くの不正につきものであるが、例えば、不正実行者やその部下、上司、周囲関係者に過剰、過大な接待交際費が供されていた場合である。
不正部門は中央省庁が顧客であり、うかつな接待に同行同席はないであろう。万が一、社内他部署の人間の同席や、循環登場各社関係者の同席が確認されるようなことがあれば、第三者委員会報告書での事実認定や共謀性を根本から覆すこともありうる。
本件では、あらゆる面で要らぬ邪推、曲解を徹底的に排除すべく判断、行動が求められており、決算修正に託け(かこつけ)時間をおき、頃合いを見て社内外ともに穏便に対応すべし等、万が一にも誤解を与えては、社員を含め全てのステークホルダーに不実極まりなく取り返しがつかない。株価をもって正当性の強弁であれば、経営者の現状認識の甘さゆえであろう。
不祥事が繰り返す理由は明白である。不祥事は問題なのでなく、表出する現象に過ぎない。不祥事を繰り返し生み育てる組織風土こそ本質であり、その風土を修正、是正する客観的、「独立」、「公正」な目、意見を軽んじてきた可能性は否めず、現代の企業活動において逃げてはならない正しい厳しさに耐え抜く覚悟が、経営陣もとより社内外取締役、監査役幹部社員に不足していたのではないか。
それらしく組織、委員会は作れど「仏作って魂入れず」。十六銀行事件の報告書に感じたことだが、「他責に逃げる」組織風土を連想させる。他責には「自分(達)は特別だ」という自意識、集団意識が強く働き、正当化される。
全てのステークホルダーの信頼回復につながる姿勢とは、まさに欠如が指摘される誠実さであろう。不祥事発覚のたび、見識権威ある第三者を招聘し委ね、不正実行者個人の瑕疵に激しく、欠ける当事者意識。再発防止策は第三者委員会の提言待ちに徹する、傍観者然たる姿勢。現場のガンバリに支えられた業績、株価回復に期する対応のみでは、長い目でみて投資家株主、全社員の信任に違えかねない。
NOSは商材や人材に小さくない成長余地を秘めており、顧客や市場に恵まれてきた。反面、売上や株価に自ら踊り踊らされ、言動と行動、素地と実像、は看板に追いついておらず”不都合な真実”はないか。幹部の内輪意識の強さゆえかウチに甘く、ソトに不感不堪な姿がここに映る。「他責に激しい」組織風土を変えぬ限り、これからも不祥事を生み育て、見逃し続けるのであろう。一考察にすぎぬが、山口氏の指摘に強く同意するゆえである。
(某氏のコメントおわり)
上記コメントには、私(山口)の意見は全く含まれておりません。あくまでも某氏の意見です。しかし、架空循環取引の根本原因に遡るためのヒントが含まれています。これはコメントを読んだ私(山口)の感想ですが、そもそも大口取引の相手方(出荷先や納入・発注先等)に対して、営業担当の幹部の方々は年に数回程度は挨拶に出向かないのでしょうか?私などは、上記A氏の取引先に経営幹部が出向いていれば、異常性は認識できたのではないかと思うのですが。
(上)(下)のコメントを通じて、私は「不可侵感」という某氏の言葉が印象的でした。本日リリースされた最終報告書でも、このあたりが強調されていたように読めます。架空循環取引の闇は本当に深いのですが、取引のリスクに真正面から向き合える組織風土こそ、他社が学ぶべき点ではないでしょうか。なお、私個人の「架空循環取引を防止・発見するために必要なこと」は近日、某会計専門誌に論稿として掲載予定です。また、なにかの機会に当ブログでも内容をご紹介したいと思います。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年3月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。