トランプ憤慨!スペイン首相を無視し、国王夫妻を国賓で招いた理由

トランプ米大統領がスペインのサンチェス首相の対ベネズエラ外交に憤慨し、さる4月21日、ホワイトハウスにスペイン国王フェリペ6世とレティシア王妃を国賓として招くことを決定した。しかも、サンチェス首相がホワイトハウスを訪問する以前に、テニスのラファ・ナダル選手を国王夫妻の訪問と一緒に招待した。サンチェス首相の存在が完全に「無視」されたのである。

トランプ大統領とサンチェス首相=Skidmore:flickr、Wikipedia)

国家元首を招くには最低でも6か月の準備期間が必要である。ところが、サンチェス首相はベネズエラのグアイドー暫定大統領がマドリードを訪問した際に会談を拒否した。その上、その4日前にはマドゥロ政権で制裁リストに入っているデルシー・ロドリゲス副大統領をマドリード空港でスペインのアバロス国土交通相が応対した。

トランプ政権は、グアイドー暫定大統領を何が何でも支持し続ける意向を固めていることから、この2つの出来事を見て、スペイン政府の振る舞いに非常に憤慨したというわけである。

特に、グアイドーはマドリードを訪問する前に、ヨーロッパの主要各国のリーダーと会談した。そうであるのに、ラテンアメリカとは歴史的に特別な関係を持っているスペインの首相がグアイドーとの会談に応じなかったということにトランプは強い憤りを感じたというわけである。

そこで、トランプは今後の米国政府はスペイン政府ではなく、国家の元首との関係を強化するという意向を固めたようだ。そして、彼の独断でフェリペ国王とレティシア王妃を国賓として招くと決めたのである。

トランプの意向が2月7日のポンペオ国務長官とアランチャ・ゴンサレス外相の電話会談で前者が後者に伝えられた。その後、双方の日程が調整されて訪問日が4月21日と決まったのである。

異例なのは、国王夫妻が前回の2018年6月の訪問からまだ2年も経過していないのに、またホワイトハウスを訪問するということと、その一方でサンチェス首相はまだ一度も招待されていないということになる。しかも、今回は国賓という形での訪問である。それにラファ・ナダル選手も一緒にホワイトハウスに招待したのである。トランプはサンチェス首相は完全に無視された形だ。(参照:elpais.com

ベネズエラ・ファン・グアイドー臨時大統領(ツイッターより:編集部)

サンチェス首相がグアイドーとの会談を拒否した理由は次のような理由からである。グアイドーが暫定大統領となってから1年経過した今も彼の存在が確固たるものになっておらず、野党の間でも分裂が観察されている。しかも、ベネズエラには多くのスペイン人が在住しており、また石油の採油などでスペイン企業も活動している。

これらに問題が生じないようにするにはマドゥロ政権とも一定の繋がりを持っておく必要があると感じているからである。

1年前、サンチェス首相は他のEU加盟国の中で先陣を切ってグアイドーを支持することを表明したが、この1年間の趨勢からグアイドーの方だけに傾斜するのは危険だと感じるようになっているということなのである。しかも、連立政権を維持しているポデーモスはグアイドーの暫定大統領としての存在を認めていない。

ということで、スペイン政府はグアイドーのことを「野党党首であり、また暫定大統領でもある」という位置づけして、マドゥロ政権の存在を無視した暫定大統領という見方だけに留まることを回避した。(参照:elpais.com

EU議会においても、ベネズエラの現状について他の加盟国の議員の間ではスペイン以上に実質的に関心がもたれていないと感じるようになっているということ。何しろ、同議会でのベネズエラについて討議するのに円形の議事室で多くの議席が空席だったということがそれを証明しているとスペイン政府は感じたのである。(参照:larazon.es

そうは言っても、スペイン政府はトランプ政権との関係改善の必要があることは認めている。両政府の間には以下のような問題があるということだ。

米国がスペインのオリーブオイルやワインなどに課している25%という高い輸入関税。この影響で、スペインのこれらの商品は米国市場から撤退を余儀なくさせられている。

米国がスペインに要求している軍事予算にスペインは十分に応えていない。NATO加盟国はGDPの2%を軍事費に充てるのを条件としているが、現在のスペインは0.92%しか充てていない。2024年には1.53%まで上げるとしているが、トランプが要求している2%にはまだほど遠い数字だ。(参照:lapoliticaonline.com

この溝を埋めるべく、近くアランチャ・ゴンサレス外相とレイエス・マロト通産相は米国を訪問する予定だ。

その一方で、米国はスペインの地中海に面したロタの軍事基地で常時停泊する駆逐艦を2隻増やしたい意向があり、そのためにはスペイン政府の了承を得なければならない。

ということで双方の歩み寄りが今後必要となっている。