欧米と日本:危機意識の違いはどうしてなのか?

中村 祐輔

米国トランプ大統領が国家非常事態宣言をした。自身も濃厚感染の危険がある。英国のジョンソン首相も、楽観的な見通しを1日でひっくり返し、非常に厳しい状況を説明した。終息するまでにあなたの愛する人を失うかもしれないとコロナウイルス感染広がりの厳しい状況と感染対策の重要性を国民に訴えた。イタリアではすでに医療崩壊が起こっている。

それなのに、日本ではBリーグが再開したり、学校再開されている。不安を解消することが油断することにつながるのは危険である。

英首相府HP、日本政府首相官邸YouTube

そして、昨日の安倍総理の記者会見を見た。安心を訴え、自分のパフォーマンスを強調するだけで、ジョンソン首相の会見とは、その危機感の伝達には数段の違いを感じた。「国民の命を守るために」という言葉が一度も出てこなかったのは悲しかった(毎日新聞の記者が、入国制限に関して、中国に対して気を遣ったのではと質問した時に、やっと、国民の命を守るとの発言が出てきた。何のために一斉休校をしたのか?最大の理由がこれだったのではないのだろうか?)。

そして、日本は他の国と比べて人口比の感染者数が少ないと言っていたが、他の国と比べてPCR検査をした数は圧倒的に少ない。米国でもドライブスルー検査を始めている。これでは、韓国だけではなく、野党から追及されても仕方がない。16000件のPCR検査ができるようになったという発言も、実態とはかなり乖離している。

「今後は空いている病床を利用する可能性がある、呼吸器を準備した」は急速な拡大を持ちこたえている状況にしては、違和感がある。おそらく、PCR検査数を増やして必然的に起こる、陽性者が増えた場合の対策は練っているように感じた。当然ながら、ウイルス陽性者の症状に応じて対応を変えるなどのマニュアル作りも準備されているのだろう。私が見ていた40分間に、PCR検査数が延びないことに関する質問は出なかった。記者の方々は、感染拡大を持ちこたえていると信じているのだろうか?

北海道での施策を経済活動への影響が大きいと批難しているような質問があったが、私は北海道の行動制限要請は正しかったと思う。ボヤのうちに消す方が、火が広がってから消すよりもいいに決まっている。この国では、PCR検査を絞り込んで陽性者を少なく見せかける偽装のようなことをしているように感じてならない。医療供給体制を準備してからという理由だろうが、これは国民を馬鹿にしている。

都合のいい数字だけをあげるのではなく、疑わしきはPCR検査を実施し、真実・事実に基づいて、今感染を広げないためになすべきこと、高齢者の命を守るために皆がすべきことを説明すべきではないのだろうか?そして、パニックにならず、あわてないこと、買い占めをしないことをトップの口から語るべきではないのか?

今後、緊急事態宣言をする場合があったとしたら、命が第一であること、食料品を含めた日用品の供給は国が責任を持つことなどを語って欲しいと願っている。経済への影響は、長引けば長引くほど大きくなる。国際的にもこれだけの広がりを見せているのだから、まずは、完璧に感染を抑え込むこと、命を救うことが何よりも優先されるのではないかと思う。

東日本大震災後の日本国民(東北の方々)はパニックに陥らず、整然と秩序を保ち、危機を乗り切った。政権の内部がパニックでばらばらだったのとは対照的だった。今回のウイルスの感染は全国の都道府県に広がっている。一人の油断が、国の災いになりかねない…..と心の中で叫んでいる。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年3月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。