中国の医療器材支援に感謝すべきか

中国湖北省武漢から発生した新型コロナウイルス(covid-19)は今日、世界全域でその猛威をふるい、多数の感染者、犠牲者が出ている。新型肺炎の死者数では欧州のイタリアは中国のそれを大きく上回り、世界最大の感染地となってしまった。

新型コロナウイルス対策に奔走するコンテ伊首相(イタリア首相府公式サイトから)

同国北部ロンバルディア州では感染者の急増で医療機関は崩壊寸前。感染防御服、消毒液、マスク、人工呼吸器などの不足は深刻で、ベルガモ病院の医者はソーシャルネットワーク(SNS)を通じて「助けてほしい」と緊急アピールしたばかりだ。

そのアピールに対し、新型コロナ感染当初、単なる「季節性伝染病のインフルエンザ」と同様に受け取ってきた欧州各国は入国を制限、禁止し、国民に外出禁止を発令するなど対応に乗り出してきた。感染当初、ドイツやフランスは新型肺炎の感染拡大で市場に不足してきたマスクや人工呼吸器の輸出を禁止し、“自国ファースト”を実行したが、ドイツ政府は医療器材の輸出禁止を撤回し、連帯感を示すなど、欧州連合(EU)域内のイタリア支援がここにきて動き出してきた。

それとは別に、ロシアのプーチン大統領はマスクや移動消毒液散布器、医師団の派遣を決定した。そして中国から先日、大量の防御服、マスクなど約30トンの医療物質がイタリアに送られてきた。欧州メディアも中国のイタリア支援を大きく報道した。医療器材の不足に悩んできたコンテ政府は、「困った時の支援こそ本当の連帯だ」と感動し、中国側の救援物資に感謝を表明している。

大震災などで大きなダメージを受けた国が救援物資や経済支援を受けた場合、ありがたく感じるのは当然であり、イタリア政府が中国からの救済物資に感謝したことに異議を唱える考えはまったくない。

本題に入る前に、余談だが、新型肺炎が猛威を発揮してきた直後、日本政府はいち早く100万枚のマスクを中国に緊急支援した。それを受け取った中国が感謝を表明したことはメディアでも大きく報道された。韓国もその時、ひょっとしてもっと多くのマスクを支援したかもしれないが、中国政府の韓国への感謝が届かなかったのか、遅かったのか、ソウル側は、「中国は日本へは感謝したが、わが国には……」と呟いたという記事が配信されてきた。それを読んで、「謝罪」を何時も相手に求める国は「感謝」も要求するものだ、と感じさせられた。

今回のコラムのテーマは、中国の救済支援にコンテ政府のようにもろ手を挙げて感謝すべきかどうかだ。「感謝」は不満や批判ではないので、多すぎて困るということはないが、①新型肺炎の世界的流行(パンデミック)は中国の武漢から発生したこと、②その不祥事を中国共産党政権は隠蔽しようとした、この事実の2点から、中国側の支援を無条件に感謝するわけにはいかないのだ。相手を傷つけ、流血させた側が血止め用絆創膏を提供したとしても、血を流す相手は素直に「ありがとう」といえるだろうか。

中国の救援物質について、①新型肺炎でイメージを悪化させたので、イメージ回復の狙いがある。②EU諸国が新型肺炎対策で不協和音が聞かれる時だけに、親中派のイタリアを支援し、欧州の中国の政治的影響力を誇示する、といった憶測分析が聞かれる。

それだけではない。新型肺炎はたまたま中国で発生したが、新型コロナウイルスは中国を含む“世界の感染病”だというプロパガンダだろう。中国共産党政権は、「わが国は過去数カ月間でその感染病を抑えることに成功した。成功談と体験を欧州にも提供する」といった思惑すら見え隠れする。一方、欧州側は感染防止に忙しく、この新型肺炎がどこから来たのか、といったテーマはどうしても後回しになってしまうのだ。

支援しているのに、文句を言われ、中国側は気分は悪いだろうが、共産党政権の独裁国家の中国の場合、そうはいかないのだ。国民を弾圧し、チベット系、ウイグル人ら少数民族を迫害し、キリスト者ら宗教者を弾圧している中国はやはり批判を受けるべき国だからだ。法輪功の青年の臓器を生きたまま取り出し、共産党幹部やその家族に移植。臓器が取られた遺体は埋葬されることなく、捨てられる。そのような国に対し、どうして寛容であることができるだろうか。

中国共産党政権のイタリア支援の場合、中国側は多くの犠牲者を出したイタリア国民に対し、先ず謝罪を表明すべきだろう。そして救援物質がその償い品であることを明確に説明すべきだ。

イタリアは人工呼吸器、防御服が緊急に必要だ。だから、それらの機材が中国から届こうが、ブリュッセルから提供されようが、緊急テーマではないが、支援国と受け手側の双方にとって事がスムーズに進むためには、やはり事の経緯を無視すべきではない。中国共産党政権は恣意的にその経緯をぼかし、支援したという既成事実を積み重ねていくことで、「事件の核心」をここでも隠蔽しようとしているからだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年3月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。