誰のために、何のためにルールがある?コロナという見えない敵を前にして

福田 峰之

新型コロナウイルスという見えない敵を前にして、「ルールは誰のために、何のためにあるのか?」、この根源的な問いを改めて考える機会となっています。

ルールといっても世界の約束事である条約、国の約束事である法律、地方自治体の約束である条例。日本国内であれば、閣議決定で定まる政令、省庁がつくる規則、業界団体がつくるガイドライン。学校の校則、会社の社則。

各レイヤーごとに様々なものがあり、それらは元々、それぞれの社会に必要性があって定めれらたものです。必要性のないルールは定められることはありませんが、誰にとって必要で、何のためにあるのかは、それぞれ異なります。

ある時点で必要性があったルールも、時と場所が異なれば、不必要になります。俗に言う「規制」、それに伴う「既得権益」も、昔は必要であったものが、今は不必要になって変革の対象になっているのです。昔は正しかった。だから、昔そのルールを作った人にとっては、変革が受け入れられないものになってしまうのです。自分が正しいと信じ、社会の為につくったルールが否定されれば、自分は何のために生きてきたのかと、という問いにぶつかってしまうからです。

本来は、自分が携わったルールが変わるということは、自分が着目したことは社会にとって大きな意味を持つファクターであって、だからこそ時代が変わることによって変革がなされる、と理解されるべきなのです。しかし、こうした思いになれないのが現実です。何かを変える時に、一番の障壁になるのは、残念ながら、この過去の貢献者なのです。

新型コロナウイルスが世界を変えようとしています。逆に言えば、人間社会が変革を求められているとも言えます。テクノロジーの進化と共にデジタル社会が到来し、経済、教育、医療、政治等の政策インフラの変革が求められ、働き方、家族、コミュニティーの在り方の根幹を問われてきました。それに呼応し、社会の在り方を変えていった国もあれば、変えられていない国もあります。

また、部分的、全体的、変えている範囲、深さも国によって異なります。では、日本はこれまでどうだったのか?残念ながら、変化のスピードが遅く、この30年間、経済は伸びず、人材育成も儘ならない状況にあったんだと思います。この30年間というのは、僕にとって秘書見習いとして政治の世界に入り、大学卒業と同時に正式な秘書に、そして横浜市会議員、衆議院議員と歩んだ33年間、そのものなのです。結果として、この間、与党自民党で過ごしてきた僕にも、その責任の一端があるのです。

新型コロナウイルスの蔓延という緊急事態となっている今、変われていないことが国民生活に大きな影響を与えています。今、困っている人を救えない現行制度に何の意味があるというのでしょうか。この状況下で、改めて規制の問題点が指摘され、これから規制改革の議論を進めていく、「今後、同様な事態になった時には、対策がとれていればよい」、本当にこれで良いのだろうか?

正にサンドボックスの発想で、今すぐに始めるべきなのです。先ず、始めることで、結果的にアフターコロナに繋がれば良いのです。社会的弱者になれば成る程、困るスピードが速くなり、今、困るのです。政治は本来、国民のもの。特に社会的弱者のためのもの。それが取り残されているのが、浮き彫りになってきています。

本来、授業を受ける権利を有する子供たちが3月上旬から授業を受けることが出来ていないのです。今すぐ、わかりやすく、興味を引き付けるネット授業を行うべきです。ネットによる遠隔授業のみでは資料を提供できない著作権や管理団体の運営手法等を議論している場合ではありません。

教師がネットでの授業に慣れていない、配信の仕方がわからない、なら今直、学べばよい。大人が議論する1日1日が子供たちにとってどれだけ大切な1日なのか、大人の理屈で学ぶ時間を削られていることを自覚する必要があります。

文句を言う、著作者や著作権管理団体がいたとするならば「セコイ」の一言につきるし、急に新しいことに対応できないという学校現場があるなら、それは子供たちに新たな知識を授ける立場にないということでもあります。これではPCを一人1台、子供たちに渡したところで…。

ネット授業に著作権の壁」(日本経済新聞)

新型コロナウイルスが蔓延する状況の中で、医療機関で受診することに様々なハードルがあることは事実です。新型コロナウイルスの診察を受ける際に、医療機関側が場所を区分したり、時間をずらしたり、様々な工夫をしているようですが、初診からのオンライン診療が普及すればもっと便利になるはずです。

外出を控える、控えるからこそ体調が悪くなることもあります。体調が悪く、医療機関に行くことは、不要不急ではありません。だから外出することが良いのではなく、オンライン診療が出来れば、重症化等の特別な場合を除き、医療機関への訪問も不要不急になり、処方された薬も自宅に届けば良いはずです。新型コロナウイルスが広まる中で、厚労省は確かに規制を緩和していますが、ちまちましたものであり、期間限定にして大幅な規制改革を今すぐに、行うべきなのです。

オンライン診療 普及に壁 初診使えず・低報酬」日本経済新聞

緊急事態になった際に、直に動けるか、決断のリスクをとれるのか、課題解決を依頼できるコミュニティをもっているのか、組織の長としての能力と日頃の活動量・質が明暗を分けます。企業や組織、人の力を借りて、早急に課題解決につなげることが大切だからです。それは、繰り返しになりますが、今、困っている人がいるからです。

台湾のマスク販売をコントロールする仕組み、韓国の訪問者から体温を報告させトレースする仕組み、中国武漢での遠隔診療システムの早期導入等、いずれも「直にやる」ことに意味があるのです。規制を調べつくし、100%完成を求め、サービスを提供する。困っている人を今助ける事より、これまでのルールやしがらみを結果的に大切にしている。誰のために、何のためにやっているのか、日本人全員が今一度、振り返ることが大切です。気づかすに、自分も規制や既得権益を守る立場を一部担っているのではないかと…。

わずか12時間で遠隔診療システム敷設 新型肺炎で疲弊する医療人員を支援」(36Kr JAPAN)

「誰のために、何のためにルールはあるのか?」緊急事態では、スピードが命。日本の場合はサンドボックスの発想が大切で、「期間限定で先ずやってみる、やらせてみる、温かく見守る」この思いを共有し、「先ず、やってみる!」ここから全てが始まるのです。新型コロナウイルスとの戦いに負ける分けにはいかないのです。


編集部より:この記事は多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授、福田峰之氏(元内閣府副大臣、前衆議院議員)のブログ 2020年3月30日の記事を転載しました。オリジナル記事をお読みになりたい方は、福田峰之オフィシャルブログ「政治の時間」をご覧ください。