新型肺炎の今こそ遠隔教育を充実させよと原英史さん・吉井勇さんたちが提言している。傾聴に値する提言だが、アクセシビリティ対応への言及が抜け落ちている。
ここまで5回に渡り、ドリルなどの学習教材、NHK for School、博物館などの教育サイト、デジタル教科書のアクセシビリティについて個々に指摘してきたが、これらが連動する状況では問題は複雑になる。
デジタル教科書で学習した内容をドリルで確認する際、ドリルへのリンクがあったとしても、画像PDF形式のドリルであれば印刷する必要がある。しかし、視覚に障害を持つ子どもは印刷内容を認識できないし、ディスレクシア(難読症)の子どもにも不便を強いる。「な」と「た」というように形状が類似した文字を読み間違えがちな子供たちには読み上げを提供するのがよいが、画像PDFは読み上げられない。
ドリルの答えが間違ったときにデジタル教科書で学び直そうとしても、画像PDFにはデジタル教科書に戻るリンクは付けられない。
教科書で「カエルの一生」について学び、その後、卵からからカエルまでの成長を動画で確認しようとしても、NHK for Schoolには字幕も音声もないので、それらがついた動画よりも理解がむずかしい。
教育サイトの地図情報に色覚異常への配慮がないと、理解できない、あるいは間違って理解するという問題が起きる。
教育からは外れるが、東日本大震災の後、津波警報の表示色が改善されたのを覚えているだろうか。最近公開された富士山大噴火のシミュレーションでは被害の大きな地域が赤、少ない地域が紫で塗られ、津波警報の表示色と違っている。この違いが命の問題を引き起こすかもしれない。
文部科学省はアクティブ・ラーニングを推進している。学習指導要領・小学校の「総合的な学習」には「グループ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態,地域の人々の協力も得つつ全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制について工夫を行うこと」とあるが、障害を持つ子どもがグループ学習に参加しても、その子だけ博物館・水族館・動物園・美術館サイトの情報が取得できないという問題が起きる恐れがある。デジタル教科書からこれらのサイトにリンクがあり、自習を求める際にも同様である。
教材・教科書・教育サイトの連動によって、デジタルを活用した教育は効果を高める。アクセシビリティの不備は、説明してきたように、連動を阻害する。原さん・吉井さんたちの提言はアクセシビリティについて言及して欲しい。