地方分権と農家民泊

井上 貴至

定期購読している月刊誌『ガバナンス』(ぎょうせい)。

今月の特集は「地方分権一括法施行20年その成果と展望」。九州大学大学院法学研究院の嶋田暁文教授の論文が印象に残りました。

農業生産だけでは農村を維持できない、と1990年代半ばから始められた大分県の「農家民泊」。普及に伴い、旅館業法や食品衛生法に抵触するのではないかという疑義が生じたという。

具体的には、当時の旅館業法上の簡易宿泊営業の許可には、延べ床面積が33㎡以上必要であり、また、料理を出して料金を取るためには、食品衛生法上の許可が必要であるが、そのためには家庭用の厨房とお客専用の厨房をそれぞれ設ける必要があるというもの。

普通の家屋ではこれらの条件を満たすことは困難で、農泊の取組をやめるか数百万円かけて家を改造して許可を取るかが迫られたという。

なんとかして、現状のままで農泊の活動を継続できないか。

県庁職員たちが知恵を絞った末に出てきたのが、「グリーンツーリズムにおける農家等宿泊に係る旅館業法及び食品衛生法上の取扱いについて」(2002年3月28日 大分県生活環境部長通知)

旅館業法上の許可については、部屋の面積だけでなく縁側や廊下も含めて33㎡という独自解釈がなされ、また、食品衛生法上の許可については、宿泊客が農家等と一緒に調理をし、飲食する「体験型」の場合はお客専用の厨房は不要という独自解釈がなされた。

こうした自治体の独自解釈を可能としたのが、分権一括法による機関委任事務制度の廃止だという。その後、厚労省の省令が改正され、農家民泊については33㎡を満たさなくてもいいとされ、さらに簡易宿泊所の33㎡の要件そのものも不要となった。地方が国を動かした好事例だ。

大分県臼杵市の農家民泊「ごらく庵」

2年前に、大分県臼杵市の農家民泊「ごらく庵」に泊まった時、今のようなお話を伺ったことや、「井上君も、(体験型だから)料理手伝ってね」と笑いながら言われたことを思い出した。また落ち着いたら、大分や九州も旅したい。

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編集部より:この記事は、井上貴至氏のブログ 2020年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。