新型コロナウイルスの蔓延に対応して、感染防止のために、国や各自治体での会見において、様々な注意喚起をしていただいておりますが、残念ながら、会見の多くは、手話通訳や文字通訳(字幕)がなく、国民の10%を占めるコミュニケーション上、困難を覚える方々(聴覚障害者、発達障害者のうち聴覚やコミュニケーションに困難がある方など)は、情報にアクセスすることができません。その結果、感染防止を十分に行うことができず、多くの方が命を落とす結果につながりかねません。
また、折角手話通訳が設置されても、テレビが手話通訳者を映さないために、これらの人々が情報にアクセスできないことも度々発生しています。
記者会見中継の中で日本語の字幕が出ることがあるし、ネットニュースで情報があるので十分じゃないかと思われる方もいらっしゃることでしょう。
しかし、日本語では会見の内容を知ることができない方や、スマホを扱うことができない方もいるため、十分ではありません。障害などの理由で、正しく情報を得ることができない人に、変化の早い新型コロナウイルスの状況を迅速に、かつ、正確に伝えることができないことは、感染を十分に防止することができず、非常に危険な状態です。
国連事務総長は、今回のパンデミックを「世界にとって最大の試練」と警告し、ウイルスの抑え込みにむけた国際協調を強く呼びかけています。今こそ、すべての人が協力しあって、お互いに感染しないように最大限の配慮をする必要があります。しかし、感染防止に必要な情報がすみずみまで伝わらないことには、地球上からウイルスの脅威はなくなりません。今こそ、地球規模の困難に立ち向かうためには、情報バリアフリーを推し進める必要があります。情報アクセス困難者が取り残されることを避ける必要があります。
また、この状況は、国連の「障害者の権利に関する条約 第九条・第十一条・第二十一条」「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 第4条」および「障害者基本法 第3条3号・第22条2項」に照らし合わせると、適切な状態ではありません。
「手話通訳・文字通訳を設置しないこと」や「手話通訳・文字通訳をテレビの中に入れて放映しないこと」は、手話や文字で、行動の判断・自己決定の基盤となる、情報にアクセスする権利や、迅速にその場で情報を取得する権利を侵害することにつながります。
従いまして、会見においては、必ず手話通訳や文字通訳(字幕)を設置していただき、また、マスコミは正しくそれを含めて放映することができるようにすべきです。
海外では、以下のように当たり前のように手話通訳を含めて放映されています。日本でもこのように対応していただくことを望みます。
今回のみならず、すべての者が等しく情報を受け取ることができ、安全で健康な生活が送ることができることを心から願っております。
ご参考:コロナウイルスで生まれる情報格差 ネットあっても「テレビ手話」が必要な理由「聞こえる人と同じ環境を」
本記事については、聴覚障害を持つ松田崚弁護士の多大なご協力・ご助言をいただきました。ここにて謝意を表します。
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伊藤 芳浩(いとう よしひろ) NPOインフォメーションギャップバスター理事長
1970年岐阜県生まれ。先天性ろう者。名古屋大学理学部卒業。現在、日立製作所にて、デジタルマーケティングなどを担当。勤務の傍ら、NPO法人インフォメーションギャップバスターの代表として活動中。